星を超えた想いを15【オリオンの刻印】 (ページ10)

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痛む心ページ10

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基山タツヤに代わり、今大会初出場となる

野坂悠馬が新たにピッチへと降り立った。

病気の手術で療養していたと聞かされていた

ファンや、実況者にとっては戦術の皇帝

野坂への期待と興奮は計り知れないものがあった。

日本は二点のビハインドを追うかたちとなり
ウズベキスタンはこの波にどう乗っていくのか
観客の期待と興奮も最高潮へと達していた。

「野坂さんとフィールドに立った以上、ゴールは決めさせない！野坂さん、俺の力を見てください！」

汚れたグローブをはめ直し、自分の掌に

拳を打ち付けた西蔭はゴール前から中盤に

立っている野坂に向かって声を張り上げる。

そんな西蔭の気合いの入りっぷりに、ふっと

笑った野坂は、視線を西蔭からフィールドの白線の外側で立っているAへと向けると、彼女も野坂を見つめていたのか、二人の目が自然とかち合った。

「Aちゃん……」

控えめに片手を上げて「頑張るよ」そう

コンタクトを取ると、Aはその意味を

理解したのか羽織っていた野坂のジャージの

袖をきゅっ、と掴みながら小さく頷いた。

そんな些細な行動でも心が満たされるような気持ちになり、野坂はふっと頬を緩ませるとAから視線を逸らして目の前の敵を見据えた。

「……………野坂悠馬」
「お前、一星に随分警戒されてるな」
「ああ。まあ、なんとなく察しはついてるよ」

ぼそり、と野坂の名を呟いた一星の声が

聞こえた灰崎は数歩後ろに下がって

野坂の隣に並び立つとそっと耳打ちをした。

だが、野坂もそれに気がついていたのか

「ずっと刺すような視線は感じてたからね」と

付け足して好戦的な笑みを頬に浮かべた。

ふと、野坂が隣に並び立った灰崎に視線を移すと、灰崎はフィールド外にいるAを見ていた。

「手、振ってあげたら？」
「はあ？誰がそんな恥ずいことするかよ」

野坂が少しからかうようにそう言って見せれば

灰崎はばっと勢いよく野坂に振り返り

眉間にシワを寄せて心底嫌そうな顔を向けた。

「喜ぶよ、彼女」
「…………………やらねーよ」
「そう」

"喜ぶよ"その言葉に一瞬、灰崎の肩が

僅かに揺れたのを野坂は見逃さなかった。

そして灰崎は数拍遅れてから返事をすると

切なげに目を伏せてポジションへと戻って行った。

「………やっぱりキツイね」

野坂のそんな小さな溜息と呟きは

湧き上がる会場の歓声によって掻き消された。

(なんか言った？野坂)
(何でもないよ、明日人くん)