赤い耳 ページ22
❀
野坂の新必殺、月光丸・燕返しが炸裂し
イナズマジャパンはついにウズベキスタンから
同点ゴールを奪い取ることが出来た。
「Aちゃん」
「ちゃんと、見てたよ」
観客に合わせるように、拍手をぱちぱちと
送っていたAに、立ち上がった野坂が
名前を呼ぶと、Aは拍手をするのをやめて
野坂の顔を見上げながら口を開いた。
「正直ね、あんなこと言われて戸惑ってたの。
野坂くんとの記憶は、青葉学園戦で
止まったままだったから…………
どう向き合ったらいいのか分からなくて」
左手で右腕を掴みながら、Aは
その時の不安だった心情を野坂に打ち明けた。
野坂もまた、そんな彼女に相槌を打つ。
「でも、野坂くんのサッカーに対する
熱い気持ちに触れることができて、それを
感じることが出来て…………嬉しかったの」
胸の辺りが温かくなって…………と
恥ずかしさを隠すように自分の横髪を人差し
指でくるくると弄って、眉尻を下げて笑うA。
「あー……えっと、つまり私が言いたいのは」
んんん、と軽く咳払いをして、ふぅと息をつくと
野坂を真っ直ぐ見つめたままこう言い放った。
「かっこよかった、月光丸・燕返し！
野坂くんらしい必殺技で、私はいいと思う
後半もあと少しだから、この調子で頑張ってね」
照れくさそうにはにかんだAに
驚目を瞠はらせた野坂は表情を消して
あやしいほど真率な表情を漲らせる。
暫くして、Aからするりと目を逸らすと
手の甲を自分の口に当てて、隠すような
仕草を見せた。
まるで照れ隠しのように、ふいっと顔も逸らした
野坂は、代わりにAの頭に左手を乗せる。
「野坂くん？」
頭に乗った手の重みを感じたAが野坂を
不思議そうに見つめると、野坂の耳が髪と
同じくらい赤くピンクに色づいているのが見えた。
「あの……」と瞳を見開いたまま
声をかけると、野坂の手が少しだけ揺れる。
「ごめん、Aちゃん
柄にもない事言うかもしれないけど
今は見せられるような顔、してないから……」
「う、ううん……………き、気にし、ないで」
野坂の耳が赤く染っていたのを目の当たりにした
Aもまた、つられるように差恥が込み上げ
ただただ、頭に乗せられた野坂の手の温もりを
感じながら、伏し目がちにそう答えた。
しかしそんな二人の会話も、悶えるような
赤い顔も会場の渦と熱気に揉み消され
誰の耳にも聞こえることは無かった…………
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月16日 18時
