らぶれたー(回想) ページ18
❀
「知ってるよ、見てたからね」
「本当!?」
どんっと、野坂に軽く突進して、右足から顔をひょっこりと覗かせた少年に「ああ」と野坂は少年の頭に優しく手を乗せて口元を綻ばせる。
「僕さ、辛くて苦しい時も
日本の試合を見ていると元気が湧いて来るんだ」
野坂から体を離して、よいしょ、と言いながら
ベンチに飛び乗るようにお尻から腰掛ける少年。
「だからAがあんなに速いスピードで
フィールドを走ってるのを見た時は頑張れ！
って応援したくなったし、あんなふうに
僕もフィールドを走りたいって思ったんだ」
足が地面にとどかず、宙に浮かせたまま
少年は足をぶらぶらと左右にバラバラに
動かして嬉しそうに頬を緩ませながら話した。
そう言うと、少年____雨宮太陽は
病院服のパジャマのポケットから
クシャクシャになった封筒を取り出した。
「それは？」
「らぶれたー！」
「ラブレター？好きな子でもいるの？」
舌足らずな口調でそう言って、しわくちゃになった封筒を膝の上に置くと、一生懸命手で伸ばす太陽に野坂が不思議そうに問いかけると、太陽は「うん！」と頷いた。
「僕ね、日本に戻ったらこれをAに渡すんだ！この間看護師さんに手伝ってもらって、書いたんだけど名前やっぱり難しくて、書いてもらったんだ」
ほら、ここ！と言いながらTo.日暮A
From雨宮太陽、と平仮名で書かれた自分の
文字を交互に指差す太陽だが
野坂は「へえ、そう」と素っ気なく返してしまう。
その目は笑っていなかった。
「僕、決めたんだ。サッカーはできなくても
精一杯応援するって！それで
自分の代わりに夢を叶えてもらうんだ、って！」
手紙にも書いたんだよ、と無邪気な笑顔を見せた太陽とAの笑顔の面影が一瞬、ほんの一瞬重なって、野坂は色素の薄い瞳を大きく見開かせた。
「………サッカーができなくても
サッカーを近くに感じていられるんだね」
両手に持ったボールに視線を落としたまま
野坂がうわ言のように呟くと、少年は
「うん！」と言いながら手紙を
ポケットにしまい、ベンチから飛び降りると
再び野坂と向かい合うような形で前に立った。
「でもね、諦めたわけじゃない。
勇気をもらって、病気を治すんだよ！
いつか、病気を直してサッカーをやるんだ！」
太陽の前向きで、真っ直ぐで、真剣なその想いに
触れた野坂は、そこではっとして
目の前で微笑む少年を見下ろした。
(そうか、僕は何を考えていたんだ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月16日 18時
