皇帝の帰還 ページ1
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ドリンクボトルを持っていた腕が掴まれ
不意に引っ張りあげられる。
「え…」
いきなり立ち上がらされて、きょとんとした表情でコバルトブルーの瞳をぱちぱちと瞬かせて野坂を見上げていると、そのまま腕を引き寄せられて、野坂の胸にAの頰があたった。
ことん、と衝撃でAの手からボトルが
滑り落ちて、音を立てて転がっていく。
「ずっと会いたかった……Aちゃん」
愛しそうな声色で名前を呼んだ野坂の腕がAの背中に回り、強く抱きしめる。ジャージを通して、Aの頰に野坂の体温と鼓動が伝わった。
未だ状況が理解出来ていないAを野坂はまるで彼女の存在を確かめるかのようにもう片方の腕でAの頭をかき抱いた。
滑らかで、癖のない絹糸のように艶のある黒髪は野坂の指先に吸い付くと同時にAの淡い髪の香りがそっと鼻を打つ。
「(野坂くんの音、聞こえる……)」
「Aちゃん…」
壊れ物を扱うかのように、優しく後頭部に回された野坂の手。野坂の胸板に頭を預けさせられていたAの耳に、どく、どくどくと野坂の脈を打つ鼓動がだんだんと早くなっていくのが伝わった。
「(温かい…なんだか懐かしい、感じ)」
胸から直接、野坂の声の響きを聞いた。それが何故か前にも似たようなことがあった気がして、妙な懐かしさと安心を覚えたAは、不思議な感覚に陥りながら心地よさそうにそっと瞼を閉じた…が。
「(待って……なんで私、野坂くんの心臓の音聞いてるの?そもそもなんで野坂くんがこんなに近いの?どうして私の名前、呼んでるの?)」
その時、ふと今この状況が明らかにおかしいことにAは気づいてしまった。閉ざされたばかりの瞼を開いて、目を見開くと恐る恐る顔を上げる。
「久しぶり、元気だった?」
光の宿らない野坂の瞳と目が合い優しい笑顔を向けられたAは二の句がでず金魚のようにぱくぱくと口を動かす。
"抱きしめられた"そう理解した時には、全身の血液が一気に顔に集中するかのような熱を感じた。
「ちょちょちょ、ちょっと!あんた、何して…!」
「何って
「ほ、ほ、ほうよ……」
そんな爽やかに言われても全然かっこよくない……そう思いながらも、顔の熱はかぁあああっと、熱くなってAの顔は茹でダコのように燃え上がる。
(相変わらずそういう耐性ないよね、キミ)
(な、なななな、何言って……!!)
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作者名:小雪 | 作成日時:2018年12月16日 18時