刺す視線 ページ7
❀
「あ、あの、こ、これは違うんです！ば……絆創膏を貼ろうとしたら一星くんが抵抗して、それで」
一星を押し倒したまま空いている片手を
つくしと、その悲鳴を駆けつけた杏奈に
向けながら顔を真っ赤にさせて弁解する。
「それで……どうしてあなたは
一星くんを押し倒したままなの？」
痛いところをつかれて、Aは
起き上がろうとするが、先程から一星が
ベンチについている彼女の腕を強く
掴んでいるせいで上体を起こすことができない。
「だ、だからこれには深いわけが……
い、一星くんからも何とか言って！」
するり、と瞳を自分の真下にいる一星に移動させると、彼は的のような真ん丸な瞳を不自然なくらい輝かせると、親指を立てた。
「だから僕はまずい、って言ったんです」
「へ……？」
一星の予想だにしない発言にAは目を
点にさせて真下で嘘泣きをする一星を見下げる。
「僕、日暮さんに無理矢理押し倒されたんです」
「え、あっ、あの……一星くん？」
この間の仕返しだから大人しくしてなんて言われて……僕、とあざとすぎる泣き真似をしてぺらぺらと話す一星の達者な口を咄嗟に空いた手で塞ぐA。
「あらあら〜、お取り込み中だったようですね」
だが、時すでに遅し____
監督の陽気な声につられて、Aが
再び視線を杏奈たちの元へと向けると
マネージャー以外に監督、子文、そして
円堂たちがその光景を目の当たりにしていた。
「僕、日暮さん襲われそうになったんです！
裏切り者だからって理由で！」
助けてください、円堂さん！と、潤んだ瞳で円堂に助けを求めつつも腕を離さない一星に「はぁ!?」と思わずAの口からそんな声が漏れる。
「ち、ちち……違います！
これには深い理由があっ…………て、」
一星を押し倒しながら必死に弁明するAに
苦い笑を零しては彼女から目を逸らす選手たち。
杏奈なんて幻滅した目で彼女を見ている。
あからさまに嫌な顔をするヒロト
軽蔑した眼差しを向ける灰崎
硬直するタツヤと氷浦
額に手を当てて呆れたため息をつく風丸。
だが、そんな選手たちの反応など
今のAにはどうでもよかった。
「に、にに……西蔭、くん……」
ヒロトと灰崎の後ろから"蔑んだゴミ"を
見るような目をして、そのまま人でも
殺せるような殺気のこもった鋭い視線が肌を刺す。
Aはその人物_____西蔭と目を合わせると
声にならない声を響き渡らせたのだった____
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月1日 18時
