弱味 ページ37
❀
「やばい…………かわいい」
ぎゅ、と一星から取ってもらったばかりの
ぬいぐるみを我慢できずに廊下を歩きながら
頬をゆるゆるに緩ませて抱きしめるA。
「皇帝ペンギンもかわいいけど、アデリーペンギン独特のアイリングが堪んないのよね……」
一星の前では抑えていた興奮を顕にしていると
彼女の肩をとんとん、と誰かが叩いた。
「そんなところで何してるんだ、日暮？」
「か、かかかか風丸さん!?」
だらしない顔で後ろを振り返れば、そこには
お風呂上がりなのか、タオルを首から掛けて
髪を拭いている風丸の姿が目に飛び込んできた。
すさささ、と後ずさり、ぬいぐるみを後ろ背に
隠しながら「見ま、した…………？」と
恐る恐る問いかけると「ばっちりな」と
髪を拭き終わった風丸が口角を上げて言い放つ。
「お、お願いします！今のは見なかったことにしてください！他言無用で！くれぐれもヒロトくんにだけは言わないでください！バカにされるから！」
「分かった、分かったから落ち着け日暮」
ずん、と風丸に詰め寄って顔を近づけてきた
Aに、風丸は、両手を前に出して
顔を背けるとAは胸を撫で下ろして
ぬいぐるみを袋の中に入れた。
「で？どうしたんだ、そのぬいぐるみ」
常備していた櫛で、髪の毛を梳かして廊下を
歩きながら風丸が質問を投げかける。
「あ………え、っと………貰いました」
「誰に？」
見つめてくる風丸に、するりと横目を移動させる。
「い……ち、ほしくん、です」
ぬいぐるみの袋で顔半分を隠しながら告げた
Aに何かを言いかけるように
口を開いたり閉じたりを繰り返した風丸だが
そのまま呆れたようなため息をつかれてしまう。
「円堂も円堂だが…………お前も大概だな、日暮」
「どういう意味ですか？」
ゴムを口に咥えて髪を纏める風丸に
眉尻を下げて不満そうに見上げるA。
「まんまの意味だよ」
括り終えた髪を揺らした後、ぽん、とAの頭に手を置いた風丸がそう言えば彼女は「意味わかりません」と言いながら自室の扉を開ける。
「前から思ってましたけど風丸さんって」
「なんだ？」
「髪の毛下ろしたら、益々女の子みたいですよね」
ぬいぐるみをベッドに置き、部屋を出た
Aがそう言えば、風丸の額に青筋が立つ。
(ヒロト、ちょうどいいところに)
(あ？)
(いい情報を教えてやる、こいつさっき………)
(嘘です冗談です！風丸さんすごくかっこいいです！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月1日 18時
