大切な人 ページ23
❀
ごゆっくりどうぞ、と観覧車の係員の方に言われて扉を閉められる。ゆっくりと音もなく上がっていくゴンドラの中で、Aは背もたれの後ろのガラス張りから見える景色に目を輝かせていた。
「あ、もう河口湖が見える！富士山も！
………………って、隣町だもんね、あたり前か」
椅子に膝をつき、身を乗り出すように、窓枠に
両手をついてまだ上昇しきれていない
ゴンドラの中から景色を見渡していく。
地上からだんだんと離れていき、遊園地にいる
人々が米粒のように遠ざかっていくのだから
不思議な気持ちになる。
「今頃みんな、どうしてるかな」
少なからず罪悪感はあるわけで、Aが
眉尻を下げて「悪いこと、したな」と小さく呟く。
「なら来なければ良かったじゃないですか」
「まあ、そうなんだけど……」
冷たく言い放たれた一星の声は密室の中では
大きく響き、Aに重たくのしかかる。
「僕のためとか、そんなのいりませんから」
観覧車に乗りたいなんて、可愛いとこあるんだな、と思いながら連れてこられて一星に後押しされるように乗せられたわけだが、肝心の一星は辛辣な態度で先程からAにあたっている。
「どうしたの一星くん、さっきから変だよ？」
窓から手を離して、足を組んで窓枠に頬杖をついている一星に向き合うように座り直すA。
すると一星は、視線は景色に映したまま
ボヤくように「……先輩」とAの名前を呼んだ。
「なに？」
一星から話題を振ってくれるのが嬉しいのか
Aの声は少し弾んでいた。
「先輩には…………大切な人、いますか？」
「大切な人？」
突拍子もないその質問に、きょとんとした
表情で、丸い瞳を瞬かせるAをちらりと
横目で一瞥して、また景色に視線を戻す一星。
「やっぱり……イナズマジャパンの皆かな
雷門やFFで仲良くなった他校の子とか、友達とか」
思いつく人々を口に出して呼んでいき、指で
数えるように折り曲げていくAに一星の
穏やかだったその眉間が徐々に顰められていく。
「あとは……」と口元に人差し指を当てた
その時_______
「家族は」
「えっ…………？」
一星の言葉に、Aは考えるのをやめて
目の前に向かい合わせに座る一星へ顔を向ける。
「先輩にとって、家族は大切じゃないんですか？」
Aが再び一星に視線を映した時には
一星は窓枠から頬杖をつくのをやめて
酷く冷めきった瞳でAを見据えていた______
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月1日 18時
