停留所『一星と遊園地編』 ページ17
❀
「先輩、俺たちどこに向かってるんですか」
かたかた、と、小さく音を立てながらバスは走る。
窓枠に頬杖をつきながら外の景色を眺める一星は
先程から隣で浮かれている"先輩"を尻目に呟いた。
「遊園地」
「バカなんですか」
スマホの画面をスクロールしながら誰かとやり取りをしているのだろうか、時折何かを考える素振りを見せてはスマホの画面をタッチしている。
「それに、俺なんかとこんな所にいるのを
誰かに見られでもしたら、先輩まで疑われますよ」
遊園地の外観であろう建物が見え始め
少し目線をあげれば大観覧車がゆっくりとした
動きで回転している。ただでさえ
憂鬱な気分がますます降下する一星。
「その時はその時よ、なんとかするわ」
「なんとかって……」
楽観的なのか、ただのバカなのか。
一星はスマホを閉じてポケットにしまいながら「楽しみだね」と呑気なことを言うAに「そーですねー」と感情の篭もっていない声で返した。
「あ、ここだ！一星くん、停車ボタン押して」
「押しません」
遊園地付近の停留所の看板が見えたAは窓枠に座る一星にボタンを押すように言うが、一星は頬杖をついたまま動かない。
「もう……」
仕方ないので、身を乗り出して腕を伸ばす。
停車ボタンを押すと、ブザーが鋭く響き
ボタンがピンク色に灯った。ぷしゅうと
空気の抜けるような音がして、バスが停車する。
「一星くん、降りるよ」
「はあ……？……ちょ、ちょっと先輩！」
扉が開き、一番後ろの席に座っていたAは
外を眺めたままの一星の手を掴むと
引っ張るようにして立ち上がらせると
バスを降りて、否応を言わせないまま
遊園地ゲートへと向かったのだった___
____夢なら覚めろ、帰らせろ____
愉快な音楽と共に、園内にアナウンスが
響き渡るのを耳にしながら一星は、華やかな
遊園地ゲートを前に、顔を引き攣らせていた。
「帰らせてください」
「一星くん往生際悪いよ？」
あ、二名の学生です、と受付嬢に伝えて説明を聞いているAを他所に、ポケットに手をつっこみながら深い溜息をついて園内を見渡す一星。
「兄ちゃ〜ん！」
「！」
不意に、一星は声のしたその方向へ振り返る。
幼稚園児だろうか、まだ幼い子供が小学生の兄と仲良く手を繋いで「あれ乗りたい」や「競走だ」なんて会話を聞きながら、一星は目を窄める。
(一星くん、ぼーっとしてどうかしたの？)
(なんでも……ありません)
(？)
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月1日 18時
