星を超えた想いを12【オリオンの刻印】 (ページ10)

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心情ページ10

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「先輩っておもしろい冗談言うんですね」

ひとしきり笑い終わった一星は、目から溢れる涙を人差し指で拭いながら嘲るような声で言う。

「冗談なんて……言ってない……。」

腹の底から振り絞ったようなAの声色は

今までにないくらい震えていて、それでいて

静かな怒りすら感じさせるものが含まれていた。

「一星くんが明日人にお礼を言った時、私には無理して取り繕ってるように見えた。」

それと同時に何かに怯えているようにも

見えたと話すAに、一星の表情は

だんだんと険しいものへと変わっていく。

「私を庇ってくれた時もそう……一星くんが

本当に卑劣なことしか考えない裏切り者なら

自分にメリットがない行動なんてしないはず。」

無駄な行動だからね、と今までの皮肉の仕返しだと言わんばかりにピシャリとAが言い放てば、鋭い眼力で一星に睨みつけられる。

それでも彼女は一星の瞳から目をそらさずに

文字通りちゃんと向き合って、見つめていた。

「時々引っかかってたの、一星くんのこと。

どうして無理して笑うのかなって。」

いくつもの笑顔の中にある時折見せた

一星の笑顔の違和感、それは作り笑顔。

「俺の事、何も知らないくせに……」

動揺するその心情を悟られたくなくて

一星は震える拳を後ろ手に隠しながら平然を装う。

「分かるよ、一星くんのこと」

「なに？」

間髪入れずに言い切ったAに、一星は片眉を吊り上げる。

「何となくだけどわかるの……その気持ち。

私も、違う形で似たような思いを前まで

誰かにしていた気がするから……。」

眉尻を下げて、自嘲気味に笑うAの姿に

一星は思わず息を呑んだ。

普段は見せることの無いような表情。彼女の丸い瞳は薄く細められ、口元は小さく微笑んでいた……吹き抜ける風がAの下ろした黒髪を靡かせる。

その全てが幻想的で……切なくも儚く

それでいて______綺麗だと思った。

「………………日暮さん………………」

先程とは違う、優しい声音で名前を呼んだ

一星はAへ一歩、また一歩近づいていくと

彼女の右肩に手を置いてそっと掴んだ。

「一星くん……？」

Aが不思議そうに一星の顔をのぞき込んだ

その時______。

どん、という音と共に彼女の肩を掴んでいた一星の手が突き放すようにAの体ごと突き飛ばす。

「えっ……」

不意に体を押され、バランスを保てなかった彼女は重力に逆らうことなく落ちていった。