星を超えた想いを12【オリオンの刻印】 (ページ38)

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湖の畔ページ38

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「俺達がこのまま黙っていると思うか？」

Aの服を整えた灰崎は

後ろを振り返ると鋭い視線で一星を射抜く。

「へえ？俺をどうにかするつもりなんだ」

ベンチに腰掛けたまま、顔色ひとつ変えることなく飄々とした態度で灰崎を見上げる一星。

「まあ、湖の畔で転んで？

足に"怪我"をすることなんてあるよな」

ポケットの中に手を突っ込んだまま湖に視線を移動させたヒロト。

「さすがに沈めたりはしないよね？」

悪意のある言い方に、Aが隣に並ぶ

ヒロトの肩を人差し指でつつきながら問いかける。

「否定はしねぇ」
「シャレにならないんだけど……」

日本代表選手が湖に頭浮かせてる姿なんて

報じられるような事があれば

イナズマジャパンの存亡の危機でもある。

「こいつ、クソっ！」

そうこうしているうちに、灰崎は一星に殴りかかっていた。しかし一星は灰崎が繰り出す拳を軽やかな身のこなしで煽りながら余裕の表情で避けている。

「すごい……」

「大振りしすぎなんだよアイツは」

しゃねーねぇな、と面倒くさそうに頭を掻いたヒロトは「あれ、もう終わり？」と膝に手をついて息を乱す灰崎を見下ろしながら煽る一星の背後へと素早く回り込んだ。

「おっ、と背中ががら空きだぜ？」

油断していた一星は背後を取られてしまい

後ろから力強く両腕をホールドされてしまう。

「日暮さん……」

きゅるん、と潤んだ瞳と上目遣いで

手負いの狼が赤ずきんに助けを

求めるかのように息を乱す灰崎(狩人)の隣に

並び立ったAに視線を送る一星。

縄で括られ、狼の耳が垂れたような姿を

連想させる一星の姿にAは思わずぽっ、と

頬を赤らめてジャージの袖口で口元を隠す。

「……か、かわいい…………」

するりと横目を移動させて呟いた彼女の言葉に「はあ!?」という灰崎とヒロトの声が重なった。

「そうです、先輩！あなたの"かわいい"後輩がこんなクソみたいなチンピラ野郎共にやられそうです！りんちですよ、りんち！……僕、怖いです」

「一星くん口悪い」

いっきに体温が低下したように頬が通常の色に戻ったAは幻滅したような据わった目でカマトトぶる一星を見ている。

「先輩より何百倍もマシです。

だから早く助けろ…………ください、日暮さん！」

一星、お前マジもんのバカだろ、と後ろで

ホールドしているヒロトが言うと

「私もそう思う」とAが同意する。

ここにきて二人の意見が初めて一致した……。