星を超えた想いを12【オリオンの刻印】 (ページ33)

今日:24 hit、昨日:2 hit、合計:381,019 hit

猫被りの狼少年ページ33

❀

____「野坂さんが…………

あの人がどれほどあんたのことを………ッ！」___

湖を一望できる湖畔にあるベンチに座り

膝を抱えて頭を埋めながら、Aは

西蔭のあの言葉を頭の中で繰り返していた。

「また、忘れてる……大切なこと」

深いため息をついて、膝を抱えていた

腕に力を込めて澄み渡る湖を見つめていると

「日暮さん」と聞きなれた……と言うよりは

会いたくない人物の声が聞こえてきた。

「一星くん」

声をかけてきた人物を見上げると

太陽の光を背に神々しいほどの笑顔で

猫を被った一星の姿が目に飛び込んでくる。

「何か悩み事ですか？」
「……………別に」

さも当たり前のように隣に腰掛けてきた一星に

すささ、とベンチの端まで距離をとるA。

「どうしてそんなに離れるんですか？」
「だ、だって…………」

しゅんとした表情を装いながらちらり。

顔色を窺うと、気まづそうに目を逸らされる。

「もしかして昨日のこと、気にしてます？」
「!?」

距離を詰めて耳元で甘く、低い声で囁けば

Aは声にならない声を上げて

真っ赤になった耳を抑えながら立ち上がる。

「僕のこと嫌いになりました？」
「嫌い、ではない…………けど」

Aが立ち上がったことで座っていた一星は自然と上目遣いになるわけで、その目に弱い彼女は「うっ……」と怯みながらするりと横目を湖に映した。

「先輩」
「………っ！」

ぐいっ、とそのまま手を引かれて、Aは

強制的に一星の隣に座らされてしまう。

「は、離して！」

逃げようと手を引っこめようとすれば

優しく包むように手を重ね合わされる。

「今更どうしたんですが？

僕たち、昨日肌を重ね合った仲じゃないですか」

「な、なななな……っ何言ってんの!?

合わせてない、合わせてない！！！」

しれっ、とした顔でとんでもない事を言った一星を前にAは顔をゆでだこのように真っ赤に染め上げると、全力でそれを否定した。

「照れなくていいですよ、あの時の先輩

すっごく可愛かったです」

また見たいです、と可愛らしくおねだりをして頬を撫でてくる一星に顔面蒼白させると「もっと可愛い顔してくださいよ」と何故か怒られてしまう。

「それにしても本当に綺麗ですよね、先輩の髪」

「！」

撫でていた頬にかかったしなやかに伸びる

艶の入った横髪に指を通しながら呟けば

Aはその言葉に目を見開き

既視感のようなものを感じて一星を見つめた。