星を超えた想いを12【オリオンの刻印】 (ページ25)

今日:5 hit、昨日:2 hit、合計:381,000 hit

空いた距離ページ25

❀

「灰崎くん、いる？」

控えめにノックを三回して[灰崎/吉良]と

書かれたネームプレートを見上げながら

扉を数回ノックするが部屋の主からの返事はない。

「…………開けるね」

ゆっくり扉を開けると、部屋の明かりは

消されていて、代わりにスマホの明かりだけが

ベッドの掛け布団から照らされていた。

中に入り、机の上に作り立てのクッキーと

ジュースを並べていくA。

「クッキー焼いたの。気が向いたら食べて、ね…」

一言も返事をくれない灰崎に寂しさを覚えながらAは布団を頭から被る灰崎を一瞥すると、眉尻を下げてベッドの横を通り過ぎようとする

「A」

が、その時____。

不意に名前を呼ばれて同時に腕を引かれてしまう。

必然的にベッドへと腰を下ろしたAは

きょとんとした表情で灰崎を見つめる。

「………お前が作ったのか、それ」
「あ……うん、そうだけど」

灰崎はベッドからゆっくりと起き上がると

机にあった皿を何も言わずに手にして

ぼすん、と少し乱暴にAの隣に腰掛けると

クッキーを摘んで、ぽいっ、と口に放り込んだ。

「美味しい？」

何となく気になったので、そう訊ねると

灰崎はコップにジュースを注ぎながら口を開く。

「食えない味じゃねえ」
「それってつまり美味しいってこと？」
「……さあな」

そう言うと灰崎はAを一瞥すると口元に運びかけていたクッキーを彼女の口元へとあてがう。

「んっ……灰崎くん？」
「お前、夕食ろくに食べてねーだろ」

食えよ、と言った灰崎にAが控えめに

口を開けると優しく押し込まれるように

クッキーが口内へと入った。

「…………美味しい」
「自画自賛かよ」

「それもあるけど……そうじゃ、なくて」
「…………」

頬を赤らめて激しく脈を打つ鼓動を抑えるように胸に手を当てるAから目を逸らした灰崎はすっ、とその目を細めると彼女の頭にぽん、と手を乗せる。

「あの……」
「これ食ったらさっさと寝ろ」

でも……私、とまだ話したいと言う気持ちがあったAが何かを言いかける前に灰崎が口を開いた。

「分かったな」
「…………………………うん」

どこか素っ気なくて、突き放すようなその言葉。

見上げた灰崎の横顔はどこか寂しそうで

何故か切なくて……苦しそうだった……。

「おやすみ、灰崎くん」
「………………ああ」

途中、誰かとすれ違い、呼ばれた気がしたけれど
今のAにそれに応える余裕はなかった____。