クッキー ページ34
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河口湖スポーツセンターキャンプ場。
富士山を前に聳え立つ立派な宿舎の中では
選手の一人であるAが厨房でヨネと共に
お菓子作りに励んでいた。
「もう少しで焼けそうだね」
オーブンの中の様子を覗き込んだヨネが呟くと
クッキーの焼ける香ばしい匂いが流れてくる。
「それにしても、あんた働きもんだね。
試合が終わったばかりで疲れてるだろうに」
感心したようなヨネの言葉に、Aは
眉尻を下げて困ったふうに笑うと、口を開く。
「私、試合に出たわりにはあまりたいした
活躍もできなかったので.....。だからせめて
祝福はしてあげたいなって思ったんです」
アラームが鳴り、焼きあがったことを確認した
Aは、中からそっとクッキーを取り出す。
「そんなことないと思うけどね」
「えっ...？」
焼きあがったばかりのクッキーを皿の上に
並べていくAに、ヨネはポケットから
スマホを取り出すと彼女にある記事を見せた。
「イナズマジャパン期待の新人選手現る.....
これ、私ですか？」
そこには、自分の写真がネットニュースとして
取り上げられていた。
「あんたがそう思ってなくても、誰かが
あんたの頑張りをちゃんと見てくれてる。
もっと自分に自信を持っていいんだよ。」
その言葉に、Aは体の奥の方が
太陽を飲み込んだみたいに熱くなるが分かった。
クッキーをお皿に並べ終えたAは
出来たての温かいクッキーを持って皆が集まる
談話室へと足を進めていた。
「私の頑張りを.....
私じゃない誰かが見てくれてる、か」
そんな独り言を呟いていると
談話室から出てきた不動が荷物を片手に
欠伸をしながら歩いてきていた。
「不動くん、もう部屋に戻るの？」
そう問いかければ「ああ」と眠たそうな声が返ってくる。
「.....美味そうな匂いがするな」
すんすん、と鼻を鳴らす不動。
「クッキー焼いたの。
今から持っていこうと思ったんだけど.....」
Aがそう言い終わる前に、不動は
クッキーを一つ摘むと「ふーん」と
角度を変えてそのクッキーをマジマジと見つめて、ぽいっ、と口の中に放り込んだ。
そして唇の端についたクッキーの粉を親指で
拭い、ぺろっと舌で舐めると
「ごちそうさん」と呟いてAの頭にぽんぽん、と優しく手を置き、部屋の中へと入っていく。
一方のAは、触られた頭にそっと手を乗せて
不動が入っていった扉を暫く見つめていた.....
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年10月12日 15時
