狼と赤ずきん ページ2
.
__FFI、第一試合数日前の夜__
草木も眠る丑三つ時。誰もが眠るキャンプ場の中で一人少女の瞼がゆっくりと開かれる。彼女はベッドから起き上がると、虚ろな目をしたままおぼつかない足取りで自室を後にする。
「A....？」
その少女の姿を、イナズマジャパンのマネージャーの一人である杏奈が不思議そうに見つめていた。選手たちの洗濯も終わり、特訓メニューや雑用を任せられ、ちょうど就寝に就こうとしていた矢先、杏奈は目にしてしまったのだ。
「何かあったのかしら.....」
今の彼女は曲がりなりにも大事な選手だ。マネージャーとして、見過ごせない.....はず、と半場自分が気になるからというものもあり、都合のいいように言い聞かせた杏奈は、彼女に気づかれないようにそっ、とAの跡をつける。
「寝巻きでどこへ行くつもりなの.....」
物陰に身を潜め、そっとAの様子を見守る杏奈。すると彼女は、何を思ったのか靴も履かずに裸足のまま外へと歩き出したではないか。
「ちょっと.....！」
さすがに裸足はまずい、と杏奈が飛び出してAの靴を取り彼女の元へと駆け出すと、杏奈は思わずその場に立ち止まった。
月明かりに照らされて、ぼーっとした表情で空を見上げるAの姿に目を奪われた。
「A.....」
小さく名前を呼ぶも彼女には届かない。柵に手をついて、雲に隠れた月を見上げるその姿に、杏奈は胸が騒がしくなるのがわかった。
彼女がどこかへ行ってしまうような...何か取り返しのつかないことが起きてしまうような、そんな気持ちにさせられる。
___そして、その時___
杏奈の視界で、今まで月を見上げていた少女のか細い背が崩れ落ちるのが目に入った。
「A.....!!」
思わず声を荒らげて、走り出そうとしたその時、崩れ落ちた少女は誰かの手によって受け止められる。
「一、星くん.....？｣
倒れかけたAを既で受け止めたのは一星だった。何故彼がこんな時間に？今すぐ駆けだして聞きたかったその言葉。
｢どうして彼がAを……｣
しかし杏奈は、崩れ落ちたAと彼女を抱きとめたまま動かない一星から目を離せずにいた。彼女の黒髪と、一星の青髪が揺れて幻想的な光景をつくりだす。
まるで、お伽噺に出てくる狼と赤ずきんのような二人の姿が、月夜に妖美に照らされる。杏奈は、影を縫い付けられたかのようにその場に佇み、二人を見ていることしかできなかった....
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 357人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2018年10月12日 15時
