脆い絆 ページ48
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FF準決勝は利根川東泉の一点リードで
前半の幕を閉じた。
会場にいるサッカーファンたちが興奮して
熱気が未だおさまらないスタジアム。
観客席からは程遠い、薄暗い入場口で
二人の少年少女がいた。
冷たい風が吹き抜け、肌を触る。
「お前たちがここまで勝ち上がってきた絆の力は、そんな簡単に壊れる脆いものなのか？」
観客たちの歓声が遠くの方で聞こえる中
円堂の静かな声が入場口内に大きく響いた。
Aはその言葉に何も言い返せず、ただただ左腕を掴む右手に力を入れるしかできない。
「確かに、強化委員の仕事はそんな簡単なもんじゃない。チームを背負う責任だってある」
目をつぶり、自分の心の奥底を覗き込むような表情で、円堂はAに語りかける。
「でもさ、それと同じぐらい、やりがいのあるすっげぇ役割だと思わないか？」
閉ざされた瞼を開き、
太陽に向かって拳を突き上げる円堂の姿に
Aは思わず見とれてしまう。
「俺さ、はじめて坂野上たちからお礼を言われた時、なんかよくわかんなかったけど、すっげぇ嬉しかったんだ。」
胸の奥が熱くなったんだ、と伝わりやすいように、右拳で左胸を叩く円堂。
「周りからなんて言われても、たった数人の
仲間が支えてくれるだけで、こうして俺は
この舞台に立っていられる。」
円堂のその言葉に、Aは胸をうたれた。
「...俺は、今の雷門がAを傷つけるようなマネをするようなやつらだとは思わない。」
「お前はどうだ？」と視線だけをこちらに向けて、問いかけた円堂。
それと同時に、Aの脳裏にはあの時の
彼らの言葉がよみがえっていた。
−−「日暮が俺たちより色々な物を背負ってるんだってことは なんとなくだけどわかる。」−−
出会ってまもない頃、はじめて氷浦から
優しい言葉をかけられたとき
頬が緩んでしまうほど嬉しかった。
星章学園との戦いで、明日人たちと対峙した時もそうだった。彼らは「裏切られた」とは思わずに、敗北した自分に、また優しく手を差し伸べてくれた。
「何でこんな...こんな大事なこと...」
勝手に「失格」だと決めつけて
肝心の自分が選手を信じてあげられなかった。
涙腺が緩み、視界に映る円堂の姿は
涙で歪んでいく。
「みんなは...私のことを信じてくれたのに...ッ!!.」
顔を、両手で覆った。
その瞬間、Aの涙が綺麗な結晶のように、床へこぼれ落ちたのを、円堂は見逃さなかった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
