キャプテンとして ページ39
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剛陣たちが止めたのを振り切り、道成を追いかけに行ったAは、水道場で彼の姿を見かけた。
「道成さん？」
水浴びをして、タオルを首から下げる道成。
その顔色は流れる水のせいで見えない。
Aが声をかけると、道成は蛇口を閉めて
水道場に両手をついてため息をこぼした。
「明日人に、言われて来たのか？」
タオルで顔を拭きながら、道成が言った。
その言葉に、Aは首を横に振る。
「自分の意思で来ました。」
本当の事を言えば、道成は「そうか」と
か細い声で返事をした。
「道成さん、練習に戻りませんか？」
部活動の生徒達が遠くで騒いでいる中
Aが口を開いた。
「日暮、円堂さんは、どんな人だった？」
「え...？」
急に質問を投げかけられ、戸惑いながらも
「素敵なキャプテンでしたよ」と告げた。
だが、今の道成にはその言葉すら胸を抉る。
「同じ雷門のキャプテンのはずなのに、どうして俺とあの人とではこうも違うんだろうな...」
夕日を見上げ、ぼやいた道成。
そこで、初めてAは彼の心に触れる。
そして何故か、昔の自分と重なって見えた。
「まさか道成さん...キャプテンをやめるなんて、言いませんよね？」
嫌な予感がして、Aが聞けば
道成は「さあな」と自嘲気味に笑った。
「ダメよ、そんな...！道成さんがいたから、今の雷門は勝ち進んでこられたんじゃないですか！」
勢いのままに、Aは叫んだ。
だがそれは、道成をもっとも傷つける言葉であったことを彼女は知らない。
「本当に、そう思うか？」
「え...？」
道成の低く、冷たい声が水道場に響き渡った。
小鳥達は囀るのをやめて、辺りには
静寂がおとずれる。
「分かるんだよ。...お前の目を見たら」
どきりと、心臓が嫌な高鳴りをした。
彼女の目には動揺がみられる。
「日暮が監視役として、背負っているものがたくさんあるのは分かってる」
Aの瞳に映る彼の表情は酷く傷ついていた。
「だが...その仕事のために、勝手な気持ちまで押し付けてくるのは、やめてくれないか？」
その言葉に、Aは大きく瞳を見開かせた。
「正直、迷惑なんだ」
冷たく言い放った道成は
Aの横を通り過ぎて、その場を去ってゆく。
「み、道成さん...！待って...ください」
伸ばした手は、空を掴み、声は掠れた。
軽率な発言が、結果的に
彼を傷つけてしまった。そんな自分の愚かさを
憎み、拳を握りしめながら痛感していた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
