夢 ページ4
。
一時、治療のためベンチへと下げられたタツヤは瞳子監督の反対を押し切り、治療が終われば試合に出るつもりでいるらしい。
「基山くんがただ優越感に浸りたいだけなら、そんなこと他人の私に言ったりなんかしない。」
痛切に訴えるAの姿は、彼の心を少なからず揺らしていた。
「だったらなんだって言うんだよ... 今更そんなこと知ったって、なにもかも遅せぇんだよ！」
俯いたまま乱暴に自分の髪の毛を掴みながら、ヒロトは悲痛な声で呟いた。
「遅くなんかない！基山くんは、ヒロトくんが来てくれるのを今もずっと待ってるわ！」
真剣な眼差しで自分を見つめてくるAの目がタツヤと酷似していた。その目が昔から苦手だったヒロトは顔を顰めると目をそらした。
「逃げないで!!」
Aがそう叫んだ声と同時に、剛陣が初得点を決めたのは ほぼ同時の出来事だった。
「逃げないで。フィールドをちゃんと見て！」
フィールドを再びさしたAは、必死に戦う永世選手たちの姿をヒロトの目に焼き付けさせる。
「今でも永世学園は基山くんやヒロトくんがいなくても必死に戦ってる！夢を掴むために！」
「夢...。」
昔、タツヤが言っていた。「いつか一緒にFFに出て日本一を目指そう」と。
夢なんて、持つだけで幸せだと思っていた。
「.....けど、違ったんだな。」
夢を掴むために、彼らは必死になって戦っている。必死に戦い、諦めないものだけが掴める勝利。安易なものでは無い。
「かし、作ったと思うなよ。」
「...ヒロトくん？」
どこか吹っ切れたような表情で空を見上げるヒロトを不思議そうに見つめていたA。そんな彼女に向けて、ヒロトは口を開いた。
「出てやるよ。.....それで満足なんだろ？」
ひねくれた態度は変わらないが、少しだけ成長したような気がするヒロトにAは嬉しそうに綻んだ。
「それにしてもお前、バカだよな。」
思わず「へ？」と気の抜けた声が口から漏れる。
「敵に塩おくるマネ、普通しねぇだろ。」
頭の後ろで手を組みながら、ヒロトが隣を歩くAに言い放つと 彼女は困ったふうに笑って口を開いた。
「うーん、似てたから、かな？」
「似てる？誰に？」
覗き込むようにしてAの表情を伺うが、ヒロトは少しだけ目を見開くと深追いはせず「やっぱ興味ねぇよ」と気を使った言葉を投げかけた。
「(...お前も逃げてんじゃねぇかよ。)」
ヒロトがそんなことを思っているなど、彼女は知る由もなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 234人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
