マダムキラー ページ28
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各々が支度を終えると、いつものように木枯らし荘を出て雷門中へと向かう。
普段からあまり団体行動を好まないAは、時間が会う度に氷浦と二人で登下校を繰り返していた。
「ってことがあってね。」
「朝から不機嫌だったのはそれが原因か。」
今朝あった出来事を氷浦に話したA。
一方の氷浦は、食卓での光景を思い返してクスクスと楽しそうに笑っていた。
「似合わないのは分かってるけど、あそこまでバカにしなくたっていいのに。」
「はぁ」と小さなため息をつく。
小学生だった頃の嫌な記憶がよみがえるから。
だから眼鏡は掛けたくなかったのだ。
また誰かにバカにされて笑われてしまうから。
「.....俺は似合ってると思う。」
「...え？」
顔に出ていたのだろうか。
Aは少し目を見開いて隣を歩く彼を見上げた。
「眼鏡を掛けた日暮も、俺は好きだよ。」
氷浦のその言葉に、Aはガラス玉のような瞳を大きく見開かせた。
「...どうかしたのか？」
きょとんとした表情で覗き込んでくる氷浦。
「ううん、何でもない。(無自覚...だったのかな。)」
無自覚でそんなことが言えるなんて、ある意味羨ましいとさえ思ってしまう。誤魔化すように笑うAに氷浦は小首を傾げた。
すると、彼女が急に立ち止まり、上を見つめていた。
「日暮？」
「あれ、何だろう...？」
指をさすAにつられて、その方向に目を向けた氷浦。いつもと何ら変わりのないはずの商店街ゲートには、「祝！準決勝進出 雷門イレブン」と書かれた旗が至る所に飾られていた。
「これまた大々的にやってるわね...。」
額に手を当てて溜息をつくA。
すると彼女の存在に気がついた商店街のお魚屋さんの大将が嬉しそうに手を振って駆け寄ってきた。
「Aちゃん、どうだい？なかなかイカしてるだろ？」
「徹夜して作ったんだ」と自慢げに言ってはいるが、やっていることは、ただの早とちりだとAは心の中で思う。
「あらあら、隣の子は雷門イレブンの子だね？」
お花屋さんのおばさんまでやってくる始末だ。
「は、はい。氷浦貴利名です。」
律儀に挨拶をする氷浦はマダムたちの格好の的だ。あっという間におば様たちに囲まれ、氷浦は戸惑いをみせる。
「まさにマダムキラー...」
氷浦の一つ一つの仕草がおば様たちの心を擽る。
その様子を他人事のように見ていたAは、彼の印象を「氷の微笑」から「マダムキラー」へと変えたのだった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
