余韻 ページ25
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激戦を制したのは雷門だった。しかし、永世学園も素晴らしいサッカーを見せてくれた。両チームが勝者と言っても過言ではない、と実況者が讃える。
「みんな、お疲れ様！すごくいい試合だったよ！」
フィールドから帰ってきた選手たちを待っていたのはAの温かい祝福の言葉だった。
マネージャーからドリンクやタオルを受け取り、選手たちが勝利の余韻に浸る中で、明日人だけが黙り込んでいた。
「明日人、どうかしたの？」
あれだけいい試合ができたのに、一人だけ浮かない顔をしている明日人に、Aが問いかけた。
「うん...。実はさっき、観客席に灰崎がいたんだ。」
タオルで顔中の汗を拭きながら、明日人が理由を言った。しかし、いつまで経ってもAからの返答がない。
「.....。」
「...A？」
明日人が彼女の様子を伺うが、Aが背を向けたため、表情は分からない。
「.....気のせいじゃない？」
そう言ったAの声色は、どこか冷たく感じた。
「え？でも俺、確かに...。」
あれは確かに灰崎だった。
見間違えるはずがない。
「こんなに人がいるもの。きっと、誰かと見間違えたのよ。」
圧すら感じるAの言葉に、明日人は少しだけ眉間にシワを作り、首を傾げた。
「そう、なのかな...。」
どこかまだ納得の行かない様子の明日人に「きっとそうよ」とAが言った。
「そんなことより、おめでとう！」
差し渡されたドリンク。
いつもと変わらない笑顔のはずなのに、違和感があるのはどうしてなのか、明日人には分からない。
「あぁ...ありがとう、A。」
−−−素直に喜べないのは、何故だろうか。
「.....来てたの？灰崎くん。」
ボソリと呟いた言葉は観客の声にもみ消されて、明日人の耳にはとどかない。
「おいブス！！」
黄昏ていたAの耳に、それをぶち壊すような声が聞こえた。
「誰がブスよ...！」
声のした方を振り返る。誰かなんて言わなくてもわかる。吉良ヒロト、彼しかいない。
何かを投げられ、慌ててそれをキャッチする。
「来年は覚えとけよ、ばーか！」
最後の最後まで減らず口を叩くヒロトに少しムッとしながらもAは投げられた物を見つめた。
「ガム...？」
彼がいつも食べているものだろうか。
「なによ、少しはいいところあるじゃない。」
そう思って微笑んだAが口の中へとガムを放り込んだ数秒後、Aの「辛い!!」という悲痛な叫び声がスタジアム全体に響き渡った。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
