時を超えた想いを6【アレスの天秤】 (ページ20)

今日:1 hit、昨日:6 hit、合計:225,628 hit

惚れた弱みページ20

.

一方で、二人のやり取りを傍観していた剛陣が肩にかけたタオルで汗を拭きながら口を開いた。

「あれはいてぇな！」

「何で剛陣さんが痛がってるんですか？」

さも自分が経験したような口振りをする剛陣に日和が不思議そうに問いかける。

「殴られ慣れてるからに決まってんだろ。」

ドリンクを飲み干した剛陣が口元の水滴を拭い、当たり前のように告げた。

「剛陣先輩、それやばいです。」

今まで何度、彼女の地雷を踏んできたのだろうか。奥入が呆れた目をしていると、ヒロトとの言い合いが終わったAが帰ってきた。

「はい、氷浦くん。」

Aから手渡されたドリンクを「ありがとう」と言ってから受け取ると、氷浦はベンチに腰掛けて水分補給をした。

「何が "はい、氷浦くん！" だ！氷浦にばっか甘い顔しやがって！」

ぶつぶつと文句を言いながら二人の元へと歩いていく剛陣に、奥入と日和はやれやれといった表情で遠くからその様子を見守る。

「氷浦も日暮にガツンと言ってやれよ！」

「え、ガツンって...？」

こてん、と小首を傾げて剛陣を見上げる氷浦に、隣に腰掛けていたAが「はぁ」と小さくため息をついて冷めた目で剛陣を見つめた。

「剛陣さんやヒロトくんと違って、氷浦くんはそんなこと言わないですよ。」

「何でそんなこと言えんだよ！」

気に食わなさそうにガンを飛ばす剛陣に、Aも負けじと眉間にシワを作り、ムスッとした表情で睨みあげた。

「だって、優しいし。」

Aのその発言に、「はぁ!?」と納得いかないような声を出した剛陣。すると、隣からぼんっ、と何かが爆発したような音が聞こえた。

二人は不思議そうに音のした方向を見つめた。.....何を隠そう、氷浦である。

「え、あ...いや。」

顔全体を真っ赤に染めあげて、表情を悟られないように前髪をクシャりと掴む氷浦に、Aは隣で目を瞬かせていた。

その差恥に耐えられなかった氷浦は「あ、明日人！」と親友の名前を呼んで、和気あいあいとしたのりかたちの輪の中へと入っていった。

「今の、恥ずかしがる要素あった？」

と、剛陣に問いかけてみるも既に剛陣の姿はそこにはなく、氷浦に絡みに行っていた。そんな彼女たちのやり取りを傍から見ていた監督が軽快に笑った。

「恋は盲目と言いますからねぇ、ちょっとした言葉でも反応してしまうんでしょう。」

そんな監督の言葉を隣で聞いていた杏奈は「無自覚タラシ」と言って小さくため息をついたのだった。