穴 ページ15
.
「要は全員ぶちぬきゃいいんだろ!?」
試合再開直後、ヒロトは乱暴なプレーで相手選手からボールを奪い取ると再び一人で雷門陣内へと切り込んでいく。
「一度抜かれても諦めるな！もう一度奪いに行くんだ！」
道成の指示で、雷門選手は意地でもボールに食らいつき、ヒロトから離れない。全員守備でヒロトを取り囲む雷門に、ヒロトは思わずたじろいでしまう。
「ヒロト、パスだ！」
囲まれたヒロトにパスを繰り出すよう手を挙げたタツヤ。しかし彼は言うことを聞かずに、一人で数人もの選手を相手にし続けることをやめない。
雷門ベンチからその様子をもどかしい気持ちで見守っていたマネージャーのつくしが口を開いた。
「はぁ、パスを出されるかとヒヤヒヤしましたよ。」
冷や汗が頬に伝い、ふぅ、と息をつくつくし。
「まさか試合でパスをしない選手がいるなんて。」
異例の事態に、杏奈も開いた口が塞がらない。
今まで戦ってきたチームの中にも単独プレーを好む者も何人かいたが、味方にパスを出さない者は誰一人としていなかったからである。
「それが彼のプレースタイルだからよ。」
杏奈でもつくしでもない少女の声が雷門ベンチに響く。きょろきょろと辺りを見渡すと、趙金雲の隣からひょっこりと顔を覗かせたAの姿。
「Aちゃん！！」
真っ先に目を輝かせては「おかえりー！」と言ってAへと飛びつく つくし。
「つ、つくしさん苦しい...」
首が締まっていたのか、苦しそうに呻くAに慌てて腕を離すと「ごめん！」と謝るつくし。
はぁ、と小さなため息をつき亀田コーチに救急箱を預けるとAも杏奈とつくしの間に着席する。
「それで、さっき言ってたプレースタイルって？」
杏奈が左隣に座るAに先程の話の続きを投げかけた。すると彼女は少し言いにくそうな表情をしながらこう話した。
「実はヒロトくん、今までパスをだしたことが一度もないらしいのよ。」
「ええっ!? 今までで、一度も!?」
クリッとした丸い瞳を何度も瞬かせ、驚くつくしにAは「はい」と言って頭を縦に振る。
「どれだけ高い個人技を誇ろうとも パスをしないとわかっている選手を封じるなど容易いことです。」
両腕を組みながらどっしりとベンチに座っていた監督がそう言うと、杏奈が不安そうに訊ねる。
「でも、もし彼がパスをしたら...」
彼女の推測に、誰のものか分からない喉が鳴り響く。
−−−その時は、確実にまずい状況になることだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 234人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2018年8月10日 20時
