回想 ページ10
。
茜の病室へと辿り着き、ゆっくりと扉を開けると期待の彼はそこにはおらず少しだけ肩を落としたがAは本来の目的である茜に声をかけ、ベッドの隣へと座った。
「こんにちは茜ちゃん。覚えてる...かな？」
自分の顔を指差し、笑ってみせるが茜は無表情のまま何も言わず応えなかった。Aは困った様に小さくため息をつくと用意していたクマを取り出し彼女の膝元へとちょこんと座らせる。
「今回のクマはね、いつものクマとは違うんだけど雑貨屋で一目惚れしたから買ってきたの！」
スマホを取り出し、じゃらじゃらとつくキーホルダーの中には茜に渡したものと同じクマがつけられていた。それを見せて「お揃いね」なんて言うA。
「お花、つけてくれてるんだ。」
以前茜の前髪につけてあげた花の形をした可愛らしいヘアピンは、今も彼女の髪に飾られていた。いくら感情を失っているとはいえ、好きでもないものを他人からつけられれば自分で取ったりするだろう。
それをしないということは少しでも気に入ってくれたのだと、解釈をするA。それがなんとなく嬉しくて頬を緩ませていると背後から声が掛かる。
「何気持ちわりぃ顔してやがる、クソ女。」
「灰崎くん!? き、来てたの!?」
後ろを振り返るとそこにはクマのぬいぐるみを抱えた灰崎の姿。ぼんっと効果音がつくくらいに顔を真っ赤にさせたA。
「たく、相変わらずうるさい女だなお前は...。」
新しく持ってきたクマを棚の上に置こうとした灰崎だが、ふと茜の膝に座っていたクマが目に入った。
「そのクマ...。お前があげたのか？」
「うん、ついさっきね。」
Aがそう答えると、灰崎は何も言わずにそのクマを茜から離すと自分が持ってきたクマを代わりに茜の膝へと乗せた。
「ちょ、何やってるの!?」
「こんな可愛くもねぇクマで茜が喜ぶわけねぇだろうが。バカかお前？」
Aが選んだクマの手を掴み左右にぶらぶらと揺らしてはケチをつける灰崎。それにムッとしたAは茜の膝に置かれたクマを床へと放り投げた。
「何しやがんだてめぇ!?」
「灰崎くんは乙女心がわかってないのよ。茜さんはこっちのクマの方が好きだーって！」
放り投げられたクマを拾い、Aもまた灰崎からクマを奪い返すと二人の間に火花が散る。
「茜が好きなのはこっちのクマだ！」
「いいえ、茜さんが好きなのはこのクマよ！」
茜を間に挟みながらお互い一歩も譲らない言い合いはとどまることを知らない。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
