トゲもじゃ焼きそば ページ6
。
「佐曽塚くん...これ何？」
目の前にある"モノ"をAは呆然と見つめながら呟いた。
「何って紅しょうがだろ。」
当たり前のように言ってみせた佐曽塚。そんなことはわかっている。見ればわかる。だが自分の知っている焼きそばはこんな赤くはない。Aは自分と世間のズレを一瞬感じてしまう。
「何でこんなに紅しょうが見えてるの!? 肝心の焼きそば見えないじゃない！」
指をさして佐曽塚に文句を言うA。
「これは...ひどいな。」
「でしょ!?」
横から覗いた白鳥が顔を歪ませながら言った。
「まあまあ、まずは一口食べてみろって。早乙女抑えといてー。」
佐曽塚に指示され迷うことなく「うん」と返事をすると後からAを羽交い締めにする早乙女。
「何がうんなの!? や、やだっ 離してやめて！」
「ほら口開けてあ〜ん。」
箸で焼きそばをすくい、嫌がるAの口元へと運ぶ佐曽塚の顔は楽しんでいた。例えるならイタズラをしてニヤニヤしている顔だ。
「いらな...んぐっ!?」
口を開いたのが運の尽きなのか、焼きそばを口へと放り込まれたAは早乙女から解放されてそのまま黙り込んだ。
「日暮、大丈夫か!?」
下を俯いたまま震える彼女に水神矢が心配そうに駆け寄る。「なっ？美味いだろ？」と飄々とした顔で佐曽塚が言うものだから殴りたくなるA。
「か...。」
「か？」
Aの口から漏れた言葉を復唱する水神矢。
「かっら〜いッ!!何これ舌が痛い！ヒリヒリする！」
顔を上げてそう叫んだAにしてやったりな表情をする佐曽塚。被害にあった本人はそんな佐曽塚を涙目で睨みあげる。
「佐曽塚、あんまりいじめてやるな。早乙女も度が過ぎるぞ。」
やりすぎだと、水神矢が注意をするも二人は悪びれもなくハイタッチを交わしていた。そんな彼らに呆れながらもAへと水の入ったペットボトルを渡してやると彼女は慌てて飲み始める。
「大袈裟だな〜、日暮は。」
「そんなこと言うならあんたが食べなさいよ...」
ケホケホと咳き込みながらAが言うと佐曽塚はボールを持って会場の中へと逃げるように向かって行った。追いかけようにも運悪く観客が来てしまったため動けない。
「日暮、この間も説明したが今日は...。」
「わかってる...。覚悟はしているつもりだから。」
チケットの切れ端を切り、観客へと手渡しながら言ったAに水神矢は「すまない」とだけ言い残すと白鳥たちとともにその場から立ち去っていった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
