時を超えた想いを4【アレスの天秤】 (ページ50)

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犠牲ページ50

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空中へと投げ出されていく選手たちを前に、フィールド外にいたAまでもが気を緩めれば巻き込まれてしまう事態だ。

何も出来ず、吹き飛ばされていく竜巻の中で灰崎の耳に「きゃぁっ！」という悲鳴が飛び込んできた。
な
「まずい、日暮！！」

鬼道が叫ぶその先には竜巻に飲み込まれそうになりながらも必死に踏ん張るAの姿があった。

「クソッ！...クソッ！」

近くにいるのに何も出来ない。助けてやることすらできない己の不甲斐なさに、灰崎は竜巻の中で叫び散らした。

「(ダメ...もう...ッ)」

竜巻に飲まれる。そう覚悟したAだったが、運良く竜巻は何事も無かったかのようにおさまりその勢いで尻餅をついた。

しかし、その竜巻の中で飲まれていた選手たちは放り出されるように地面へと体を打ちつけた。

【これは...なんということでしょう!?】

あまりの悲惨な状況に、実況アナウンスの声すらも震えていた。

「...日暮さん。」

ふと、野坂がフィールド外に座り込むAの姿を目に映す。先程まで希望に溢れていた瞳は酷く荒み、その目からは無数の涙が溢れ、彼女の頬を濡らしていた。

「トドメだ。」

見せしめといわんばかりに、葉音のシュートが倒れ伏したまま動かない灰崎を襲う。

「...は...い...ざき、くん.....灰崎くん!!」

強烈なシュートが灰崎目掛けて飛んでくる。Aの叫び声と共に

－－－衝撃音がスタジアムの会場へと響き渡った。

だが、覚悟していた痛みが灰崎にはやってこない。

「(なんだ...人...、か？)」

不思議な温もりを感じ、ゆっくりと目を開けた灰崎の視界に飛び込んできたのは傷つき、自分に頭を預けるAの姿であった。

「ーーーーーッ!!」

声にならない灰崎の叫び声が選手たちの耳へと届く。灰崎を庇ったAは背中にシュートをくらい、彼に抱きつくような形で項垂れていた。

一部始終を見ていた観客やマネージャーたちは顔を両手で覆い、悲鳴をあげ始める。

「何で.....何ででてきたんだよ.....てめぇ」

ボソリと小さく呟きながら動かぬAを力強く抱きしめる。そして数秒後、灰崎の苦痛な叫び声がスタジアム全体に木霊した。

【試合終了！星章学園が試合の棄権を申し出たため、この試合は王帝月ノ宮の勝利となります！】

試合終了のホイッスルが鳴り響き、これ以上の試合続行を不可能だと判断した監督が決断を下した。ブーイングが起こる試合会場の中で灰崎はスタジアムの中心でAをただ抱きしめていた。