皇帝の苦悩 ページ49
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止められてしまったシュートだったが、今までとは気持ちが違った。作戦が思うように行ったことで星章選手たちの顔色には焦りがなくなり、"次は行ける"そんな前向きな言葉だけが陣内に飛び交っていたのだ。
「...中々の作戦だったよ。これは僕にも予想しえなかった事だ。」
フィールド外にいたAの元へ歩み寄り、野坂が彼女を見下ろしながら言った。
「星章学園だって勝つことへの執念は野坂くんに負けてない。この試合、勝たせてもらうから！」
強気な口調と真っ直ぐな瞳が野坂を射抜く。明るく、荒みのない純粋なその眼差しに、野坂は眩しそうに目を細めた。
「キミたちと僕とでは背負っている物の重みが違う！ここで負けることなど許されないんだ。」
そうやって言った野坂の表情には固い決意と揺るがぬ信念が刻まれていた。だがAには、夕立ちの前ぶれの空のように 今にも泣きだしそうな野坂の顔が目に浮かんだ。
彼はいったい何と戦い、何から逃げているのだろうか。Aは両手を見つめる野坂の姿から目が離せなかった。
「キミはここから離れた方がいい。」
野坂の言葉にハッと顔を上げた。
「離れる？」
どうして？そう聞き返そうにも、彼は既にフィールドへと戻りポジションにスタンバイしていた。
「(何...この胸騒ぎ。)」
ドクドクと心臓が嫌なくらい大きく脈を打つ。胸がざわざわと騒ぐような感じたことのない気持ちに、Aは胸を当てながら不安を抱いていた。
再び試合が再開され、ボールの競り合いが始まる。その中で一人、野坂はぶつぶつと何かを呟いていた。
「やるぞ...やるんだ...やるんだ、やるんだ！」
「野坂くん...？」
自分に言い聞かせ、追い詰めている野坂の姿にAは心配そうな表情で彼を見つめた。ぎゅっと目を瞑り、大量の汗が彼の顔を濡らす。
そして決心した野坂はふっと顔を上げる。
「グリッドオメガ！フェーズワン！」
手を前に突き出し、言い放った野坂の掛け声とともに、王帝の動きがまた変わる。嫌な空気が漂い、赤い霧が星章学園を襲う。
「な、何が起きてるの!?」
風が突風へと変わり、赤い霧のせいでフィールドが見渡せない。何が起きているのか状況把握出来ていないAは顔を隠していた両腕の隙間からそっと目を覗かせた。
「竜...巻!?」
赤い霧は風となり、突風を巻き起こし、さらには竜巻へと進化を遂げた。その竜巻は容赦なくフィールドにいた星章選手たちを次々と飲み込んでいく。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
