月光のエンペラー ページ42
。
Aが会場へと到着した頃には、既に選手たちはフィールドに散らばり始めていた。遅れたことを監督に謝罪し、イレブンバンドに指示を送るためのタブレットを受け取るとホッと一息つくA。
「あれ？Aちゃんジャージは？」
「あっ...」
春奈に言われてそういえば野坂に貸したままだったことを思い出すA。王帝月ノ宮のベンチを遠目から眺めていると自分のジャージが綺麗に畳まれていたのが見えた。
「あ、暑かったからバスで脱いできたの！」
あははと笑い飛ばし、苦しい言い訳をするAに怪しむことなく春奈は「そうだったんだ」とあっさり納得してくれる。
【さぁ、ついに始まりました。ランキング一位を誇る星章学園対連勝を続ける王帝月ノ宮、今大会大注目のカードとなっています！】
実況者の声がスタジアム全体に響き渡り、星章選手たちは気を引き締めて王帝月ノ宮の試合に挑む。
−−−−そして運命の一戦が始まった。
「悪いが、最初からとばすぜ！」
試合開始早々、灰崎がパスを受けて飛び出していく。しかし 先程まで前にいたはずの野坂が一瞬で灰崎からボールを奪い、横を通り過ぎていく。
「なに!?」
「何、あのスピード!?」
瞬きする暇もなく、目にもとまらぬ速さで星章陣内を駆け抜けていく野坂にAはベンチから立ち上がり データ以上の速さに驚愕していた。
いや、それ以前に先程まで苦しんでいた彼のどこにそんな体力があるというのだろうか。
「速い!?」
ピッチ絶対指導者ですらも驚かせる巧みなスピードに星章学園は野坂にゴールを許してしまう。
「ま、まだまだ一点！みんな、作戦通りに動いて！」
開始数分で圧倒的な力の差を見せつけられ、戦意喪失となりかけた星章選手たちにAはタブレットを素早い手つきでタッチしながらフィールド外まで走り、励ましの言葉をかけた。
選手たちのイレブンバンドに通知が入ったと同時に、再び星章学園ボールで試合が再開された。指示通りに灰崎がロングシュート体制に入る。
「オーバーヘッドペンギン！」
灰崎の必殺技が王帝月ノ宮の西蔭を襲う。しかし彼は微動だにせず、灰崎のボールを素手で止めた。
「こいつ!?」
「灰崎くんの必殺技を片手で...。」
灰崎の十八番とも言える渾身の必殺技ですら西蔭には通用しなかった。
「この程度か。」
見下した態度でフィールドにいる灰崎と、外側にいる自分たちを鼻で笑う西蔭にぎりっと奥歯を噛み締めた。完全に相手のペースにハマっている。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
