タイムリミット ページ41
。
胸のあたりを苦しそうに手で抑えながら時々呻き声をあげる野坂の手をそっと包み込むと、安心したのか力を入れていた手が弱まってゆくのが分かった。
「待ってて野坂くん、すぐに人を呼ぶから...ッ！」
そう言って立ち上がろうとした彼女の腕を野坂が強く掴んだ。
「その必要はないよ......僕は、試合に...」
息を乱しながら途切れ途切れに呟いた彼の言葉にAはガラス玉のような瞳を大きく見開いた。
「試合に出るつもりなの!? ダメよ！こんな状態で試合に出たりしたら、ただではすまないかもしれないのに！」
壁に手をつき、ふらふらと立ち上がりジャージを肩に掛けたまま歩いていく野坂の隣を歩きながら説得をするA。
「それでも...ッ!!」
普段の彼からは決して聞くことがないような、強く振り絞った野坂の声は二人の空間に大きく響き渡った。
「僕には時間が無いんだ...ッ!! 」
「(時間が無い...？)」
感情的になる野坂の"時間が無い"という言葉がやけに引っかかった。そんなAの気持ちとは裏腹に、野坂は歩く足を止めようとしない。
「ば、バカ！！あんた本当にバカじゃないの!?」
再びよろけそうな体を必死に支え、罵声を浴びせてしまう。
「はは...君よりはマシだよ....」
口元を引き攣らせながらも減らず口を叩く力だけは残っている野坂にAは本日何度目か分からないため息をついた。
「...無茶したら、許さないから。」
「それは僕にたいして？それともアレスかな？」
右肩を貸して野坂の歩幅に合わせながらゆっくりとスタジアムまで歩いていくAの横顔を見つめ、野坂が質問を投げかけると「両方よ、ばか。」と冷たい言葉が返ってくる。
数分かけてやっとのことでスタジアムの入口前にたどり着く。 肩に乗せていた腕をゆっくりと放す野坂に心配そうな表情を向けるA。
「もう大丈夫なの？」
その言葉に野坂は一瞬目を見開いた。
「...君も、彼女と同じことを言うんだね。」
「彼女？」
頭の中で引っかかっていた女子生徒の言葉とAの言葉がリンクする。
"死ぬほど会いたいんだ！"
忘れかけていた言葉が頭の中でリフレインし、野坂は振り払うように首を左右に振ると Aの頬に手をそっと添えて「ありがとう」。そう言い残すと先にスタジアムへと姿を消していった。
「あんな風に笑うんだ。」
ボソリと呟いた言葉は野坂に聞こえるはずもなく、その場に響いた。そしてAもまた、皆が待つ試合会場へと走り抜けていくのだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 272人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
