思いやり ページ39
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開会式も無事幕を下ろし、明日から始まる第一回戦の王帝月ノ宮との試合に向けて星章学園は最終調整に入っていた。雷門との試合以降、灰崎がチームに溶け込んだことで連携プレーにも磨きがかかる。
「(相手はあの王帝月ノ宮...何をしてくるか分からない。...私がしっかりしないと...皆を守らないと)」
ベンチに座って何時間も難しい表情でタブレットと睨めっこをしているA。
「日暮、ずっとあの調子だな。」
「前の試合で負けたの、まだ悔やんでるみたい。」
Aの様子を遠巻きに見ていた白鳥、早乙女がパス回しの練習をしながら話し合う。灰崎もまた、彼女の様子が気になるのか先程からチラチラとベンチの方を何かと気にしていた。
「灰崎！」
「あ？」
水神矢に名前を呼ばれ、振り返ると同時に投げられた物を咄嗟に手で掴む灰崎。
「何の真似だ。」
投げられた物を見つめながら灰崎が言う。
「たまには休息も必要だ。...それに、俺よりもお前から渡された方が日暮も喜ぶだろうからな。」
それだけを言い残すと水神矢は練習へ戻っていく。取り残された灰崎は面倒くさそうに舌打ちをすると仕方なくベンチへと向かう。
一方、灰崎が向かっているとは知らないAは対帝国月ノ宮戦の対策を考えていた。
"二度とサッカーをできなくさせることなど容易い"
あの言葉が何度も脳裏でリフレインされる。難しく考えてはダメだと、頭を左右に振り乱すA。
「難しい顔ばっかしてんじゃねぇよ。」
頭上から聞こえてきた声に、俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「灰崎くん...」
名前を呼ばれた本人は腰に手を当て、溜息をつくと何やらガサゴソと包み紙を開けてAにこう告げた。
「口開けろ。」
「は？」
急にこの男は何を言い出すのだ。思わず気の抜けた声が口から飛び出した。
「いいから黙って口開けてろ」
唇に何かをあてがわれ、押し付けられたので仕方なく言われたとおり口を控えめに開けると、それは口内へと入っていった。
「美味しい...」
放り込まれたのは飴玉だった。口の中で蕩けるようなイチゴの味に緊張が解けたのかAは頬を緩ませた。そして用を済ませた灰崎は練習に戻るため足早に立ち去ろうとする。
「灰崎くん！」
その背中に慌てて声をかけたAに灰崎は歩いていた足を止め、振り返る。
「勝とうね、王帝月ノ宮に。...絶対ッ！」
真剣な表情で告げたAに再び背を向けると、灰崎は右手を軽くあげてフィールドへと戻っていった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
