永世の問題児 ページ33
。
フットボールフロンティア決勝大会当日。開会式が行われるスタジアムではたくさんのサッカーファンたちが地方からも足を運んでいる。
そして選手たちが待機する入場口でもまた、Aが指揮を一任されていた。
「やばい、緊張してきた...。」
読み上げる原稿に目を通すとAは深いため息をついていた。バクバクと心臓が鳴り響き、心なしか紙を持つ手さえも震えていた。
「大丈夫？随分緊張してるみたいだけど...」
頭上から声がし、顔をあげてみるとエメラルドグリーンの綺麗な瞳を持った少年と目がかち合った。
「き、基山くん！」
「久しぶりだね、日暮さん。と言っても、インタビューであったばかりだけど。」
愛想のいい雰囲気で微笑むタツヤは永世学園のキャプテンを担っている選手だ。彼とは会ったばかりで親しいという間柄ではないが、優しくしてもらっていたこともありAの中での印象はかなり良いものであった。
「宣誓式、やるんだって？」
タツヤがそう尋ねると、Aは小さく頷いた。
「でも、ちゃんと読めるか心配で...。もし噛んじゃったりしたら恥ずかしいし。」
「日暮さんなら大丈夫だよ。」
万が一のことを想像して、肩を落として落胆するAにタツヤは優しい言葉をかける。その刹那、彼女が持っていた紙が何者かに奪い取られる。
「何だこれ。」
頬にペイントが入り、灰色の髪色の少年は永世学園のゴットストライカーを自称する吉良ヒロトであった。彼は原稿内容に目を通すと、吹き出して大笑いをする。
「か、返して！」
失礼なヒロトの態度にムッとしたAは原稿を奪い返そうと手を伸ばすが、彼は意地悪をして彼女が届かない高さまで原稿を持ち上げる。
「だっせー言葉ばっか並べやがって。やっぱり優等生様は違うね〜？」
鼻で笑い、小馬鹿にした態度を見せるヒロトに背丈が足りないながらも背伸びをして、必死に原稿を掴もうとするA。
「いいから返せ！この不良！悪魔！」
罵声を浴びせながらジャンプをし、何とか原稿に手が届いたAだったが"びりっ"という音が静まる入口内に鳴り響いた。
「原稿用紙がー！！」
「お、落ち着いて日暮さん！」
涙目で断末魔のように叫ぶAにタツヤが慌てて彼女に駆け寄る。
「きゃんきゃんうるせーんだよちんちくりん女。たかが紙の一つで喚いてんじゃねぇ。」
悪びれもなく、ふんぞり返るヒロト。反省の色すら見せない彼もまたAの中で問題児選手と認定される一人であった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
