全国出場 ページ30
。
灰崎との話も終わり、更衣室へ戻ろうとした明日人達の背を追いかけてAが口を開いた。
「明日人！」
名前を呼ぶと、気がついた明日人は嬉しそうに小走りでやってくる。かわらない彼の明るさに、Aは眉を下げて優しく微笑んだ。
「全国出場おめでとう、みんな。」
拍手を送ると、明日人たちは顔を見合わせ頷き合う。その行動を不思議に思ったAは斜め前にいた灰崎と顔を見合わせる。
「それにしても日暮が敵として対峙してくるなんて思わなかったぞ？」
明日人の隣まで歩き、道成が困ったような表情で言った。
「ほんとほんと、お前が敵に回った時はマジでビビったぜ。」
それに便乗するように剛陣もうんうんと何度も頷く。
「怒ら、ないの？」
お互い目くばせしながら面白そうに笑い合う雷門イレブンにAは拍子抜けした顔をする。
「怒る理由なんてないだろ？」
タオルで汗ばんだ顔を拭いて万作が口を開いた。
「それに、何か事情があったんでしょ？俺たちじゃできないことをAはいつもやってくれてる。だから今回もきっとそうなんじゃないか、ってどこかで思ってた。」
真っ直ぐな瞳で裏表のない明日人の一言一言がAの心を満たしていく。人を疑うことを知らない無垢で純粋な少年に、心が浄化されてゆくような気持ちになった。
「それと星章につく理由がイマイチ謎だけどな。」
容赦のない小僧丸の発言にAの心は矢で射抜かれたようにグサリと突き刺さった。
「まあまあ、勝てたんだしいいじゃん。許してあげようよ小僧丸くん！」
のりかが宥めるように言うと、「ふんっ」とバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。
「それで、全国試合には戻ってくるんだよな？」
氷浦が疑問を投げかけた。
「えーっと...。」
「まさか星章学園に転校するの!?」
歯切れが悪いAに、明日人たちは緊迫とした難しい表情で彼女にぐっと迫る。
「違う違う！転校なんてしないから！」
Aの言葉にほっと胸を撫で下ろす一同。
「こいつは暫く星章にいるんだよ。」
聞きなれた声と共にAの肩に重力がかかる。
「つまりだ、てめぇらとのサッカーごっこはここで終わりってことだな。」
鼻で笑い飛ばし、ニヒルな笑みを浮かべる灰崎に剛陣が喧嘩腰で迫ろうとするもそれは道成に止められた。
「でも、また戻ってきてくれるんでしょ？寂しいけど、俺は待つよ。Aの帰りをずっと！」
眉を下げて笑う明日人の表情はどこか無理をしているようにも見えた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年6月19日 14時
