時を超えた想いを4【アレスの天秤】 (ページ15)

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失墜ページ15

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「クソォオオーッ！」

スタジアムへの入口から光がもれた頃だった。灰崎の怒りのこもった悔しげな雄叫びがAの耳へと流れ込んでくる。思わずその場にしゃがみこんでしまい、電光掲示板を見つめると得点は三対一と雷門が追加点を入れ、追い上げていた。

「(このままじゃ...負ける。)」

雷門の監督のことだ、きっと星章学園へ勝つための奇策を用意しているに違いない。Aは力の入らない足でなんとか立ち上がると星章ベンチへと向かっていく。

「あれ、Aちゃんだ！」

「何だか様子がおかしくないですか？」

つくしがAの存在に気づき、杏奈は彼女の様子がいつもと違う気がしてならなかった。

「そういえば後半が始まる前にAちゃん、灰崎くんに連れて行かれてたよね。」

「その時に何かあったってこと？」

コーチの肩に手を置き、身を乗り出しながらAの様子を窺うつくしと杏奈は「ううむ」と唸りながら考えた。

Aが星章ベンチにつくと、春奈は慌てて彼女に駆け寄り心配そうに声をかけた。しかし久遠監督やコーチはAが遅刻したことを良しとはしない。

「日暮、今まで何をしていた。」

帽子を深く被り、メガネの隙間から見えた久遠のその目にAは背筋をゾッとさせた。

「監視役は選手の試合を最後まで見届ける義務があるはずだ。それを放棄するのならお前はこの仕事にむいていない。」

いつも物静かで言葉数が少ない久遠監督がここまで話すのは機嫌が悪い証拠だ。「監視役を降りろ」最後に言われたその言葉にAは目を見開き、咄嗟に頭を下げた。

「すみません.....ごめんなさいッ！」

悲痛な叫び声のような謝罪に、フィールドで試合再開のスタンバイをしていた星章選手が不思議そうにこちらを見つめていた。

「謝るべき相手は俺ではない。申し訳ないと思うのなら、その気持ちを勝利へと繋げ。それもまた監視役としての務めだ。」

「...はい...ッ」

堪えていた涙が三度溢れ出す。ぽたぽたと地面に落ち、嗚咽する声が彼女の口から漏れる。春奈が気を利かせてベンチへと誘導する。

「灰崎、何故日暮の立てた指示通りに動かない？そうすればさっきの一点、入らなかったはずだ。」

灰崎を注意する水神矢の声がやけに大きく聞こえてきた。

「俺の前であいつの話をするんじゃねぇ！」

「灰崎...？」

感情をあらわにし、反発する灰崎の姿に水神矢は小首を傾げてベンチで泣いているAと彼を交互に見つめ、何かを察した。