繋がるパス ページ38
。
灰崎が投げ捨てたユニフォームは、勢いよくベンチで休憩していたAの顔に的中した。女の子らしからぬ声が出たのは、自分でも分かる程だ。
「Aちゃん、大丈夫!?」
「うん、全然。もう全然大丈夫。」
春奈が慌てて声をかけるとAは笑顔でユニフォームを取って見せるが、その目は決して笑ってはいなかった。隣にいるコーチは見事に怯えている。
「もっと可愛げのある声出せねぇのか？」
謝りもせず、ユニフォームに着替えながらバカにしてくる灰崎にAは立ち上がり、彼の元へと行く。
「お生憎様、これが地声よバカ！」
「バカはてめぇの方だろうがクソ女！」
「あんたよりはマシよ！！」
お互い指を突き立て、幼稚ないい争いを繰り広げる灰崎とAにあの鬼道ですらも呆れていた。
「だいたい、ユニフォームは畳んで返しなさいよ!」
「うっせぇな！俺が勝つまでそれ持っとけって言ってんだよ!!」
乱暴に投げるように再び渡されたユニフォーム。その事に文句を言おうとするAだったが、灰崎の意外な言葉に彼女は目を丸くさせその場に固まった。
発言した本人はAが黙ったことをいい事に、鬼道、天野と共にフィールドへと戻っていく。
「盛大に告白したみたいな空気になってないか？」
「現実的に言うと、ただ押し付けただけだけど。」
「言い方が悪かったな。」
その様子をフィールドから見ていた白鳥、早乙女が口々に言う。涼しい顔で戻ってきた灰崎とベンチで頬を赤く染めぼーっとしているAを交互に見て水神矢が判断した。
各々の準備が整い、審判がそれを確認すると試合再開のホイッスルが鳴り響く。星章ボールからのリスタートだ。
「灰崎くん、大丈夫かな。」
「大丈夫。きっと灰崎くんなら･･･。」
鬼道と灰崎の見事なパスワークで次々と木戸川清修を抜いていく。ベンチから不安そうに見守る春奈と信じ抜くA。
「灰崎くん･･･。」
「囲まれた！」
鬼道から灰崎へとボールが渡ったのはいいが、木戸川DFに阻まれてしまう。そして灰崎の後ろでパスを要求する折緒たち。
「ゴールの引き立てくらいにはしてやるよ、凡人共！」
はじめて灰崎から佐曽塚へとボールが渡った瞬間であった。そのままパスを繋いでいく。
「口の悪さは相変わらず･･･。」
「でも勝てるわ、この試合！」
口の悪さは折り紙付きな灰崎に苦笑いをする春奈の隣でAは勝利を確信し始めたのだった。果たして、勝負の行方は･･･？
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年4月28日 12時
