悲願 ページ34
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静まり返る会場。星章学園ゴールでは灰崎の胸ぐらを掴んで涙ながらに訴えていたAの姿に釘付けだったからである。
異例の事態に実況者も言葉が出ない。
「星章が、灰崎くんが負けるところなんて見たくない！どうしてそれを分かってくれないの!?」
バカ、ともう一度呟くと胸ぐらを掴む手を緩め、灰崎の胸板で頭を預けて涙を流すA。それ以上何も言うことができない彼女を見越して、水神矢が立ち上がる。
「灰崎、お前はゴールの前に立っていてもFWの気分でいるのか？」
「なんだと？」
言葉の意味を理解出来なかった灰崎は、その苛立ちから胸板で涙を流すAを水神矢へと押し付ける。
「お前がそこにいるために、キーパーを外されたものがいる。」
ゴールの外際では、天野が痛む胸を抑えて息を切らしていた。ファイアートルネードを直で受け止めたのだから無理もない。
「そこにいる時くらい、ゴールをどう守るのかを考えろ!!」
今まで一度も怒鳴ることをしなかった水神矢が、はじめて声を荒らげた瞬間であった。その言葉を言い放つと、水神矢はAを連れてポジションに戻っていく。
「大丈夫か？」
「ごめん、試合中なのに。」
試合が再開する直前に水神矢が隣に位置するAに声をかけた。
「気にするな。少なからずお前の言葉はアイツの心に響いたはずだ。」
「水神矢くん･･･。」
真っ直ぐとフィールドの先を見つめる水神矢に、Aは後に立つ灰崎を振り返る。彼は何かを考えている様子であった。
「信じよう、灰崎を。」
水神矢のその言葉に小さく頷くと同時に試合再開のホイッスルが鳴り響いた。
木戸川清修のコーナーキックから始まり、武方務に行くはずのボールをカットした水神矢だったが、そのボールは運悪く豪炎寺へと渡ってしまう。
「来るぞ!!」
水神矢のその一言で、守備を固める星章DF。
「(俺はFWだ。点を取ることしかしらねぇよ。)」
先程水神矢から言われた言葉を思い出す。目をよく凝らして見ていると、ほかの者達が囮だということがよくわかった。
灰崎は動かぬDFに腹がたち、自らが豪炎寺の元へと駆け出す。
「灰崎！」
「あいつ、また性懲りも無く！」
灰崎が豪炎寺からボールを奪った。作戦に気が付かれていたことに驚いたのか、豪炎寺はあっさりと抜かれてしまう。
「す、すごい！」
「ボサっとしてんなよな、クソ女！」
呆気に取られていると、灰崎からパスをされ慌ててボールを受け取るAに注意を促す。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年4月28日 12時
