時を超えた想いを【アレスの天秤】 (ページ8)

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木霊ページ8

。

「それにしても、サッカー協会がどうして伊那国中に？」

そこが気がかりだと道成が言う。

大会にもでたことがない無名の中学にわざわざ派遣がくるなど考えがたいことだったからだろう。

「本土では色々とサッカー協会がごたついててね。」

事情を知らない明日人たちはAの意味深な言葉に顔を見合わせる。

「稲森明日人、万作雄一郎、海原のりか、キャプテンの道成達巳で間違いない？」

「なんで俺達のこと？」

一人一人に手のひらを向けて名前を言っていくA
に自己紹介していない彼らは驚いた。

「それは企業秘密です。･･･なんてね！」

人差し指を口元に当て、ウィンクをして見せた彼女に一同は深いため息をついた。

「企業秘密って、完全にプライバシーの侵害じゃ･･･」

「大変だ明日人！！」

いきなり茶目っ気を見せたAに呆れた声で万作が言うと、言葉を遮るように明日人の親友"氷浦貴利名"が慌てた表情で声を上げた。

息を切らし、悲しげな表情を見せる氷浦にただごとではないことを皆が察した。

「お前のお母さんが！」

息を整えることなく、氷浦が告げた言葉に明日人は一瞬息をすることを忘れた。
気づいた時にはその場を走り出し、島一番の病院へと向かっていた。

夕暮れ。明日人の様子を見に来ていた氷浦たちは病院から飛び出した彼の姿に胸を痛めた。
去り際、涙を流していたからだ。
それだけで全てを察せる。

「彼はどこへ？」

「てっぺん崖だと思う。」

恐らくだけど、と付け加えた氷浦にAはお礼を言うとてっぺん崖へ足を進めた。

てっぺん崖への坂道の途中、泣き叫ぶ悲痛な明日人の声が伊那島に木霊した。

Aがてっぺん崖へつく頃には辺りは静かになり、明日人は三角座りで頭を伏せたまま微動だにしなかった。

「隣、いい？」

伏せたままの頭が少しだけ動く。
Aは明日人の隣に座るとそっと彼の言葉に耳を傾ける。

「･･･母ちゃんが、死んだんだ」

「･･･うん。」

か細い声で告げた言葉の重みは痛いほど伝わってきた。

「俺、何もしてやれなかった。」

「･･･そっか。」

怒りと悲しみ、色々な感情が混ざったような声色。Aは刺激をせず明日人に寄り添う。

「サッカーも、母ちゃんも、もう戻ってこない。」

何度も拳を打ち付けた痛々しい手に残る傷跡に目を細める。母の死。サッカー部廃部。
中学二年生の彼には荷が重すぎる出来事ばかりだった。