優しさ ページ42
。
草むしりをしてから三十分後。
生い茂ていた草むらは二人の手によって着々とサラサラな地面へと変わっていった。
「なぁ、あいつ日暮じゃね？」
「ホントだ。てか、なんで草むしり？」
たまたま水を飲みに来た陸上部が、草をむしるAの姿を目撃してしまう。
「強化委員も落ちぶれたもんだよなー。」
「田舎者の集まりを雷門サッカー部にする時点で日暮もどうかしてるぜ。」
バカにした挙句、笑いながら去っていく陸上部に氷浦は睨みを利かせる。
「あいつら･･･。」
「いいのよ氷浦くん。言わせときゃいいの、あんな野次。」
満杯になったゴミ袋を縛り、新しい袋を取り出しながらAは気にせず作業を続ける。そんな彼女の横顔が、氷浦には悲しげに見えた。
「ここの人達は、サッカー部のことをよく思っていない人もいたりするの？」
作業をしながら氷浦が聞いた。
「沢山いるわ。ただでさえ、弱小とも言われていた雷門サッカー部がここまで上りつめたもの。批判する人もいて当然よ。」
他の部から文句を言われることもあるが、それは仕方のないことだとAは告げた。
「どうしてそんなこと聞くの？」
「さっき彼らがバカにしていた時、日暮･･･一瞬だけど悲しい顔してたから。」
言われて初めて気づいたのか驚いた表情をするA
。
「ここに来てまだ日が浅いから何とも言えないけど、日暮が俺たちより色々な物を背負ってるんだってことは なんとなくだけどわかる。」
今までまともに話したことがなかったから知らなかっただけかもしれない。こんな優しい目を彼もするのだとAは初めて思う。
「氷浦くんはすごいね。私、そんなにわかりやすいかな？」
草むしりをある程度終えたAは近くの花壇へと移動して花を優しく撫でる。
「俺だけじゃない。きっと明日人たちも 日暮の苦労は知ってる。」
「･･･そっか。そう思ってもらえて、嬉しいな。」
選手たちに、少なくとも氷浦にはそう思われていたのが今のAにはとても嬉しかった。監視役とは嫌な役回りであるとばかり思っていたから、他校を回っては情報を提供する。
今までだって鬱陶しい目で見られることばかりはあったが、こんな優しい言葉をかけられたのははじめてだった。
「(やってて、よかった。)」
心から、そう思えた。
「氷浦くん。」
「ん？」
"ありがとう"そう彼に伝えると、少し驚いた顔を見せたけど優しく笑い返してくれた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年4月6日 17時
