制度 ページ5
。
伊那国校長室。先程まで室内に響いていた声は、Aのたった一言で静寂に包まれた。
「サッカーは熱くなりすぎました。伊那国はその熱さについていけなくなったのですよ。」
その沈黙を破ったのは冬海であった。彼らに振り向かず、窓から見える外の景色を見つめたまま言葉を紡ぐ。
「どういうことですか」
「スポンサー制度をご存知ですか？」
道成の問いかけに、昨年から始まったスポンサー制度について話し始める。人気が出始めたサッカーにおいて、安全なチーム運営を行うには莫大な資金が必要。だが、現時点で伊那国にはスポンサーなど存在しなかった。
「それで廃部ってことですか」
その理由なら合点がいくと、道成が気まづそうに言う。意味があるのはスポンサーがついているか否か。ただそれだけだと冬海は付け足す。
「それならば、私がスポンサーになってくれる方をお探しします」
胸に手を当て、主張する彼女に明日人たちは不思議に思っていた。初対面の自分たちになぜそこまで、と。
「例えあなたがスポンサーを探したとしても、伊那国中サッカー部廃部という決定事項に変わりはありません」
「そんな･･･」
是が非でも伊那国サッカー部を廃部にするつもりの冬海に明日人が肩を落とす。
「そんなこと、認めるわけにはいかない」
「あなたに認めを乞う必要はありません」
一泡吹かせる言葉が見つからない。きっと今この男に何か言ったところで受け流されるだけだとAは言葉を交わす中で感じていた。
「このこと、協会にご報告させてもらいます」
「どうぞご勝手に」
自由にサッカーをさせてあげられない自分の無力さに情けなくなる。
「(円堂さんなら、きっと)」
彼なら、この場で答えを導き出せていただろう。雷門を勝利に導いた彼なら。
「退出願いましょうか」
冬海のその言葉と共に地響きが鳴り、地面が揺れる。体制を崩しかけたAは隣にいた道成に支えられる。
「地震か？」
「違う。･･･これは」
外の異変に気がついた明日人は窓からグラウンドを見渡す。
「なんだよ、これ。」
目の前に広がる光景に、言葉を失う。
先程まで遊んでいたグラウンドが工事業者によって破壊されていたからである。
「ひどい･･･。」
あまりの出来事に口元を手で抑えるA。
「サッカー部を廃部になんかさせない！」
その言葉を残し、明日人は校長室から立ち去る。
それに続き道成とAも顔を見合わせ彼を追いかけていった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年4月6日 17時
