▷３４ ページ40
.
「アイス美味しい？」
「うん。」
「…そっか。」
ソファーに座って上機嫌にアイスを頬張る私と、その隣に座って顔を覆うのを止めない彼。対照的すぎて左右での空気の温度差が明白だ。
ちりんちりんと楽しげに鳴る鈴の音が久しぶりだと感じるのはお風呂で長く考え込んでいたからかもしれない。
口溶けのいい滑らかなアイスが喉を通る度軽やかに鳴って、ふふん、と鼻歌を歌いたくなる。
彼が貸してくれた服は小さくて着れなくなってしまったと言ったもの。デザインとしては黒地に白のワンポイントが入っている至ってシンプルなTシャツ。彼が着れば似合うであろう代物だ。
私には緩い、というかダボダボで少し動けば肩からズリ落ちてしまう程には大きくて、そのTシャツだけで膝近くまで覆えてしまう。ロングTシャツと言っても差し支えない。
下はパジャマではなくホットパンツを履いてるものの、隠れてしまっているので意味を成していない。
「…ね、A。」
「はぁい？」
「ほんとに俺の服着てよかったの？」
「え、はい。あのパジャマ着てたら動けなくなっちゃいますもん。ソレにあのままじゃ泣いてましたし。」
「…そっか。」
先程聞いた返答と同じ返答をし項垂れる。ピンクブロンドの髪が彼の表情を隠してしまってどんな顔をしているのかさっぱり分からないが、声色からして後悔しているらしい。何故。
据わった目で「世の中には彼シャツという文化があるんですよ。」と言っていた後輩を思い出す。
もしかして今の私は彼シャツとやらをしているのだろうか。だけどTシャツじゃなくてワイシャツを着た状態を彼シャツと指していた筈だからこれは彼シャツではない。多分きっとおそらくメイビー。確証を持てないせいで酷く曖昧だ。
どうなんだろうな、と考えながら体温で液状化しかけているアイスを掬い、口元へ運ぶ。食べようとして口を開き、ふと思い付いてすぐに閉じる。
「…こっち向いてくれませんか？」
「ん？」
「えいっ！」
「ッ、んぐ、！？」
「へへ、美味しいですか？」
うっすらと頬を染めている彼に無理やりスプーンをねじ込んでアイスを食べさせる。
今日された事のお返し、のようなものだ。全ては返せていないけれど、目を見開いて驚く姿を見れれば十分だと満足する。
「…溶けてる。」
「それは言わないで下さいよ〜！」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1406人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イズ - ありがとうございます。楽しみにしてます！ (9月9日 16時) (
レス) id: e7957dca7b (このIDを非表示/違反報告)
ゆずもち@(プロフ) - イズさん» コメントありがとうございます。今日明日公開する予定なので少々お待ちくださいませ。 (9月9日 10時) (レス) id: 893f10864f (このIDを非表示/違反報告)
イズ - はじめまして。いつも楽しく拝読させて頂いています。こちらの続きを読ませていただきたいのですが、当方中国に在住のためTwitterの登録ができずフォローさせていただくことができません。今後作品を公開される予定はありますでしょうか？ (9月9日 3時) (レス) id: e7957dca7b (このIDを非表示/違反報告)
ゆずもち@(プロフ) - どーなつさん» コメントありがとうございます。パスワードですがTwitter(X)をフォローの上、ツイート(ポスト)内容を確認してからDMかましゅまろにてご連絡ください。 (9月5日 19時) (レス) id: 893f10864f (このIDを非表示/違反報告)
どーなつ - 推しに拐われた２の方でパスワードが分からず読めないのですが、どうしたらいいでしょうか。教えてほしいです。 (9月5日 18時) (レス) id: 185f957abc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
