sweet*and*sour…086 ページ6
―――――ｻﾞｱｧ…
熱いシャワー。
汗が流れてさっぱりしてくると
先ほどの会話が思い起こされる。
“月島君”
学校では演技がてらのつもりだったから
特に何も気にならなかったけれど。
“月島君、おかえり！”
うわ、駄目だ。気持ち悪ッ。
凄まじい違和感に眉を寄せた。
家でもそう呼ばれると思うと想像できない。
初めは同居人のよしみで妥協しただけだったけど
今は彼女に呼ばれる名前も嫌じゃないし。
というか寧ろ耳が違和感を覚えるレベルだ。
「本当にお人よし…」
余計な事ばっかり考えて。
嫌だったら直接言うっての。
変なとこでばっかり気を遣って疲れないのか。
僕にはあんなに繊細な気遣いはできない。
出来たとしても疲れるからしない。
…まあ、そこがAの良い所なんだけどさ。
そういうところはある意味“変人”というか。
僕にはない、真似できない長所だ。
「蛍ー！タオルここ置いておくねー！」
シャワーを浴びていると扉越しに僕を呼ぶ声。
“蛍”
やっぱりそうじゃなきゃ。
良く耳に馴染む。
―――――ｷｭｯ、
「聞こえなかった。何？」
「蛍のタオル、ここ置いておくね。」
「分かった。」
平穏さに目を閉じれば脳天気に笑う彼女の笑顔が
脳裏に浮かぶほどに彼女の存在が僕の中に居着いていた。
「A。」
「んー？」
「次、家でも苗字で呼んだらさ、」
「うん？」
「何してやろうかな。」
「ええ…怖いよ。」
何してやろうか。
彼女が慌てふためくこと。
「キスとかどう？」
「な、何言ってんの！？」
案の定、何を落としたのかガシャンと地面に響く。
「君この手の話題弱いよね〜。」
大抵こういう話題を出すと彼女は茹でダコ状態。
扉越しでも焦っているのが分かるのがまた面白い。
もし仮に有言実行しなければいけなくなっても
場所を指定したわけじゃあるまいし。
口じゃなければいけないわけでもないのにね。
「また揶揄う…」
「バレた？」
「バレるよ！」
「苗字で呼ばなきゃいい話でしょ。」
「もう呼ばない！あんな怒るとは…思わなかったし…」
尻すぼみの呟き。
別に怒ってたわけじゃない。
ただちょっと面白くなかっただけで。
「怒ってないよ。嫌われたかと思っただけ。」
「まさか。私は蛍のこと結構好きだよ？」
「…君、本当に変わってるよね。」
「あはは。性格悪くても意地悪でも今更だもん。」
「ちょっと。それ仕返しのつもり？」
「どうかなー？」
「覚えてろよ。」
「お相子！」
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作者名：愛羅
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年8月29日 15時
