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「…りょうくん」
「ん？」
「実はね、」
「うん」
「再来月から、映画の撮影はいったんだ」
「え！おめでと！」
「…」
「すごすぎる！ほらやっぱ大忙しじゃん」
「うん、」
「…海外映画でさ」
「え」
「すご！めっちゃすごいじゃん」
「ありがと、」
「じゃあ、
あんまり日本にはいなくなっちゃうってこと？」
「半年くらい、かな」
「えーいいね、かっこいいなあほんと」
「…」
「そっかあ、Aちゃん日本いなくなっちゃうんだ、」
「なんか、あの、正式に発表されるまでなるべく秘密にしてほしいって言われてて、」
「うんうん」
「だからりょうくんに連絡できてなくて、なんていうか、」
「そんな、いいよ笑
こんなただの友達に教えてくれただけ恐縮だよ」
やっぱり言ってよかったかもって思えたのも束の間
私はすぐに言えなかったことを後悔した。
これを言うべきなのかどうか、ずっと踏み切れなかった
友達、だから
言うのは大げさなような、
でも親友には言えてるじゃん？
じゃあ
どう反応するかわからなかったから？
自分の思い過ごしだったらそれがわかるのが怖かったから？
りょうくんが落ち込みそうだと思ったから？
少なくとも、今、
彼の顔を見たら、迷ってた自分が本当に馬鹿だったと思った。
勝手に、軽く言えないような状況を自分の心の中で作って
ただ逃げてただけだった。
「Aちゃん」
「…うん」
「ねえ、何、その顔？」
「…」
「変な顔してるって笑」
「ううん」
「どうした笑 映画おめでとうじゃん、ねえ」
「ねーえ」
「…Aちゃん」
「…ぎゅってしてもいい？」
大きな体に包まれる。
無言のまま時間が流れていく。
彼の体温が伝わってくる。
後悔とか、色んな気持ちとか、心の中に溢れてきて、色々置き場に困って
自分の両手を彼の背中に回す。
抱きしめる力が、さっきより強くなった。
ぱっ と離されて、
目がチカチカする瞬間、満面の笑みで
「いってらっしゃいっ」
りょうくんの目は、少し潤んでた。
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作者名：雨粒 | 作成日時：2020年9月2日 13時
