歩み寄る。 ページ8
気づくと、私は一人だった。
辺りに誰もいないのだ。
街の広場のような場所に、私だけが立っていた。
明るい空の下、静かな中で、目の前にある噴水の水音だけが響いている。
___どこ、ここ?
訳のわからない状況にたじろくけれど、随分と冷静に答えへ辿りついた。
「ここ、昼間来た」
確か、昼食後に行ったトレビの泉、だった気がする。
いや、やっぱり絶対そうだ。
私は、噴水の上の三体の彫像を見上げて、確信する。
私は噴水に歩み寄る。
___これは、たぶん、夢だ。
噴水の淵に触れて、そう思う。
昼間に訪れたトレビの泉は、観光客で溢れ返っていた。
そんな場所に私一人だなんて、絶対ありえない。
「なんでこんな夢見てるのかな、私」
夢だとわかりながら時間を過ごすというのは、なかなか虚しい。
折角なら夢の中でも、ロシアさんと一緒に、イタリア兄弟に観光案内を続けてもらいたかった。
それならば、少しくらい寂しさも紛れるだろうに。
水面を覗き込むけれど、映るのは私の姿だけだ。
見ていると、水底にコインがたくさん沈んでいるのに気づく。
それと同時に、昼間の彼らの会話が蘇る。
『この泉にはねー、言い伝えがあるんだよ!』
『あ、じゃあ、あの人達がコイン投げてるのって、その言い伝えの?』
『あぁ。後ろ向きにコインを投げ入れると、願いが叶うっていうな』
『それと、投げる枚数によって願い事は違うんだ。一枚は____』
…………。
肝心な部分が思い出せない。
昼間に、私はコインを投げなかったから、なおさら記憶には残らなかったようだ。
___でも、何で投げなかったんだっけ?
はっきりしない記憶に苛立っていると、背後から聞きなれない声がした。
「一枚投げると、またローマに来られる。二枚投げると、大切な人と一生一緒に居られる」
驚いて振り返ると、この時代には不釣合いな、鎧のような物を纏う一人の男性がいた。
精悍な顔立ちで、癖のある濃い茶髪。
鍛えられた身体をしていて、歴戦の勇士、とは、こんな人なんだろうと思う。
彼は赤いマントをなびかせながら、呆気に取られている私のほうに歩み寄り、続きを言う。
「三枚投げると、恋人や夫婦は別れられるんだが……お嬢ちゃんには、関係ないかもな」
彼はにっと笑った。
私はしばし硬直してから、ぎこちない笑みを返した。
「……あなたはローマ帝国さん、ですね?」
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サチ - 元少女今22ψさん» どうかお気になさらず!シリーズがまだまだ続いているのも素敵な作品がたくさんあるのも喜ばしいですよね……!有り難すぎるお言葉です。作品を見つけてくださり、お気に入りに入れてくださり、ありがとうございます。 (2021年10月22日 6時) (レス) @page45 id: b5bbe5e52b (このIDを非表示/違反報告)
元少女今22ψ - すみません、別の方のコメント欄と間違えてコメントしてしまいましたすみません、本当にすみません・・・あの貴方の作品読ませていただきましたもっと早く貴方の作品と出会いたかった(お気に入りに入れさせて貰います。 (2021年5月27日 22時) (レス) id: 463d9420f9 (このIDを非表示/違反報告)
元少女今27ψ - こんばんは、ついこの前ようつべにてヘタリアシリーズ最新作がUpされそれらを見てふっとこちらの作品を思いだし数年ぶりに見に来て読み返しました、最高ですまたヘタにハマりそうス(;ω;)。 (2021年5月27日 20時) (レス) id: 463d9420f9 (このIDを非表示/違反報告)
サチ - とぬきちさん» 数年前の作品を覚えてて読みに来ていただけたことに感激しております…!恐ろしく遅い更新ですがこれからも続けていく所存です!こちらこそありがとうございます! (2020年9月5日 20時) (レス) id: 8a29a4a84c (このIDを非表示/違反報告)
とぬきち - はぁぁぁぁああ!!!連載続いてたんですね!!!数年前に占ツクにハマってしばらく離れていた者なのですが、ふと読みたくなって来てみたら続いていてすごく嬉しいです…ありがとうございます!応援してます!!! (2020年7月27日 19時) (レス) id: 38dc4cd85e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:サチ | 作成日時:2016年8月3日 12時