ワンカップにカカオを敷き詰めて (ページ33)

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女性の部屋、と言えば女性の部屋ではあるが
必要最低限の家具しか置かれていないその部屋は結構殺風景だった。
「…あまり部屋を見ないで欲しいな」
「、ごめん」
確かにあまりにも不躾でデリカシーのない行為だった。思わず慌てて謝罪を告げて、足で扉を押して閉める。

腕の中で彼女が不満げに、運べとでも言うようにベッドを見るのでそこまで歩く。

…余談ではあるのだが、部屋の奥へ奥へと進むほど他人の匂いがする。他人の匂い、という言い方は余りにも適当である正しくは彼女の匂いだ。

傍に居るのが当たり前ではなかった頃は慣れなかった、柔らかくて甘い、落ち着く香り。
最初の頃は香水かと思っていたが、良く考えてみれば身なり最低限以上あまり気にしない彼女が香水を付けているのは考えにくい。

彼女の…いや、考えていることが失礼だろう。…自分が変態みたいで嫌だな。
ベッドに降りた彼女は少しころころと寝返りをうったあと、ゆっくりと布団に包まる。
「ありがとうクラーク君」

そう言って目元だけ布団から出して目を弓なりに細める彼女に、僕も口角をあげてみせた。
「どういたしまして」

それじゃあ、と立ち去ってしまえたらいいのだけれど余りにも今日彼女と会う時間が少なかったからか体が動きたがらない。彼女から離れたくなくて、退室という選択肢を取りたがらない。

理解している、別に僕は彼女の友人であってそれ以外の何物でもない。だからここから「お大事に」と立ち去るのが最善で、当然だと言うことも。

ただ棒立ちで見下ろしてくる男に、Aは少し視線を向けたあとそっと口を開く。
「…今日あんまりお話しなかったしお話してく？」

そう言った彼女に、思わず食い気味に僕は頷く。Aは、それを見てちょっと笑ってた。

彼女が指定したベットの傍の椅子に座って、彼女に求められた今日のゲームの話をする。
勿論頭が君のことでいっぱいだった、とは言わなかったけれど考え事をしていてあまり良い立ち回りができなかったとだけ伝えた。
「君が考え事で手が回らないなんて珍しいね」

そう言って君は笑うけれど、君が熱を出したせいなんだけどね。なんて心中は責任転換をしてみたりして雑談をしたあと不意に、思い浮かんだ質問を投げかけた。

「Aは、ピアノは好きなのか？」
「突然だね、」
そう言われてから確かに唐突すぎたと後悔をする。
彼女は少し慌てた僕を気にせず、さらりとこう答えた。