ワンカップにカカオを敷き詰めて (ページ28)

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「気にしないで、こういう事聞いてくるの貴方だけじゃないから」

その言葉に少し内心慌てる。
ちょっと前のめりになるあからさまな僕にエミリーは笑った。

「貴方が危惧しているような人物じゃないから！ほら、ライリーさんとかが聞いてくるの。真面目になのか巫山戯ているのかは分からないけれど「彼女は頭が何かの病気なんじゃないのか！？」って」

「ああ…」
なんだ、彼かと安堵してまたちょっと照れる。
貴方が危惧しているような人物じゃないからって、僕がどうして彼女について知りたがっているのか知っているような台詞だ。

あまり上手く表情が作りきれず口を噤んで下を向いていれば、くすくすと目の前から笑い声が零れた。
「…エミリー？」
「ああ、いえ…ごめんなさいね。応援してるわ、イライ。」

僕はやはりわかり易かったみたいだ。
思わず苦笑いをこぼして、席を立った。

今日はそれほど天気も悪くないし暖かい日だ。とはいえ、季節的には冬に近付いているので最近の中では暖かいと言う意味である。

医務室から真っ直ぐリビングに歩く間、頭に思い浮かぶのはAの笑顔だ。
現在の時刻はまだ朝の範囲内、彼女に会いに足を進めた。

こうやっていつも朝一番に彼女の笑顔を見て一日が始まって夜おやすみで終わる。
恋人になりたいなんて高望みはしないから、ずっとこの時間が壊れなければいいのにとは願った。

今日も眠たそうに相棒が首を揺らしていて、平和な一日の始まりの予感がする。
ただ、今日は彼女に会う前にエミリーと会話をしたから頭が冷め切っていていつもよりは元気だ。

勇気をだして好きなものでも聞いてみようか、とリビングの扉を開いた時予想外の光景に手をはたりととめた。

「A？」

長いテーブル、沢山並ぶ椅子の中少しいつもより遅く来てしまったからか彼女は腕を枕にして顔を伏せていた。寝ているのだろうか、静かに扉を閉めてそっと足を進める。

すう、と息を吸う音が聞こえて寝息かと思い足を止めたが悩ましげに吐き出されたその息はどうも寝息だとは思えない。
狸寝入りだろうか。
「A」
もう一度傍に行って肩をゆすれば、Aはぱっと起き上がった。