番外1:2/14 ページ41
「バレンタインデー…ですか？」
柔らかそうな髪の毛、切りそろえられた前髪
宝石のように艷めく瞳に、リスのように丸い眼。
人の理想を形にしたような少女は 、こてりと小首を傾げた。
その様子に思わず庭師、エマはどき と胸を高鳴らせる。そう、使用人 Aはとても美しい少女だった。性別も年齢も関係なく、ただ 見惚れて時間を忘れる程には。
Aが更に首をかしげていく様子を見て、エマはぱっと意識を取り戻す。
「そうなの！バレンタインなの。だから、私達と一緒にチョコを作りましょう！」
Aは視線を彷徨わせる。
「はい、承知しました。…然し、お言葉ではありますが バレンタインとは男性から女性へ愛を伝え、贈り物をする日なのでは…。」
そう、Aの辞書には「バレンタインデーとは愛する女性へ贈り物をする日」という内容しかインプットされていない。
然しエマはその言葉を受けて、にこやかに笑う。
「そうなの！でもね、実は今回は美智子さんの出身 日本の文化を真似して、女子でチョコレートを作って男の人たちに渡す事になったの！」
そう言われれば、Aは納得したように微笑んだ。
「成程、美智子の国の文化なのですね。ご教示頂きありがとうございます。」
「うん！…それじゃ、一緒にキッチンに行こうなの！」
そうしてAの手を絡め取れば、驚いて少しだけ悲鳴を上げるのを無視して手を引っ張った。
今だけ、自分が彼女を独り占めしているような気分で 少しだけスキップをした。勿論、Aは困っていた。
そうして始まったバレンタインデーのチョコレート作り。
それぞれが作業をする中、Aだけ少し隅っこで何かをしているのを見て マーサは思わず声をかける。
「A、何をしているの？」
そう言って覗き込めば、テーブルの上に散らばる小さなメモを見て 答えを聞く前に納得した。
「メッセージカードを書いています。その、美智子さんに感謝を込めて渡す と教わったので。」
そう言ってはにかむAであるが、メモにはびっちりと綺麗な文字が敷き詰められている。
まあ、それが彼女だ。彼女らしくていいんじゃないかと思いつつマーサは質問を重ねる。
「貴方のチョコは？」
尋ねられたAは、少し斜め後ろを向いて答える。
「あちらの冷蔵庫で1時間冷やしています。」
「成程。」
いつにも増して緩やかな表情のAを見て、マーサも思わず頬を緩めた。
「…楽しみね、渡すの」
「…、はい！」
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作者名：鯖原 | 作成日時：2019年1月19日 18時
