全肯定女子いいよ!ちゃん (ページ38)

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ケース38:使用人と仲間ページ38

「けれど、私は我儘でまだ皆様に仕えていたいと思ってしまった。」

絞り出すように声を吐くA。
一つの演劇を見ているような、演技に惹き込まれるような気分だった。胸の奥が、Aの揺れる瞳を見て悲しげに悲鳴を上げている。

「主人じゃない、私は皆様の使用人じゃない。でも、まだ皆様と過ごした事が忘れられません。…どうか、私がまだ皆様に仕えて居られるよう許可を下さいませんか。」

完全に顔を上げたAは、いつもの人形なんかじゃない。いいや、最初から人形なんかじゃなかったのだ。

自分らを主人と思い、その主人に只管敬愛を込めて奉仕して来ただけ。
自分の積み上げてきた常識を、「人形」だの「非常識」だの悲しい言葉で崩されてしまい、Aは今漸く、常識の一歩を踏み出そうと努力している。

しかし、彼女はもう自分らに仕える者ではない。

「A仕えるんじゃないでしょ、」

思っていた事がするりと吐き捨てられたような、そんな呟きだった。マーサは微笑みながら言う

「私達は対等なんでしょう？じゃあ、仕えるんじゃないわ、仲間よ。これからも仲間でいましょう」

そうだ、上手く出てこなかった言葉をマーサが代弁してくれた。その言葉に頷いたり、「そうなの！」と反応してみたり様々な様子を見せたあとで、皆またAに視線を向けた。

「仲間、でいいのですか？」

思ったより明るい表情だ、水気を多く含んだ瞳はぴかぴかと輝いている。唇をきゅっとしめて、期待を込めた視線をただマーサに真っ直ぐに送った。
「当たり前でしょ、A」

「…ありがとうございます！私、Aは精進してまいります！」

Aぱっと花が綻ぶような笑顔を見せた。

人間の完成品、人形、何でも言う事を聞く女
全肯定女、いいよちゃん、非常識、高嶺の花

もう、どれも彼女ではない。

まるでかかっていた呪いが解けたかのように、その笑顔は可愛らしくて素敵で眩しくて、何よりも人形の彼女としては失敗作だった。
しかし、人間の彼女としては上出来だ。

Aは可愛らしい一人の少女だった。