全肯定女子いいよ!ちゃん (ページ37)

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ケース37:使用人と荘園の人ページ37

朝の光がリビングを大きく照らしている。

昨日と同じようにぎゅうぎゅう詰めで全員が揃っていて、その全員の視線は一人の人物に向けられていた。

皆の視線の向く方向にいたのは、どんなに視線を向けられても表情も姿勢も崩さずただ真剣な表情でリビングの中心を見ている使用人、Aの姿だ。

Aがいつになく真剣な顔をしているので不安そうにする者、はたまた訝しげにするもの、面倒くさそうにするもの。

それらを一度見回したあと、Aは突然腰を折った。
綺麗な角度でのお辞儀だった。
髪の毛を幕のように垂らして、手は腹のあたりに添えられている。礼に慣れている人間の、丁寧なお辞儀だ。

「まず、昨日は御迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…。」

「そして、昨晩ナワーブさんに教えて頂いて理解したのですが…」
その言葉でナワーブにチラチラと視線が向く。ナワーブは動じない様子でAを見ている。

「皆様は主人じゃなかったのですね」

その言葉にナワーブ以外殆どが、よくわからなさそうな顔をした。
「私は幼い頃から、主人に仕えて過ごして来ました。主人が当たり前で、主人だけが私の存在意義でした。」

ぽつりぽつりと話し始めた彼女は、徐々に俯く。話しにくいことを話している様子で、細い指先同士が絡んでいる。睫毛を揺らして、泣きそうに鼻を啜った。

「私の世界は主人と使用人で構成されていました。使用人でなければ主人、主人でなければ使用人でした。だから、私は皆様と最初顔を合わせた時、接し方や態度等含め皆様を主人だと判断したのです。」

その言葉に色々と把握した者達は目を見開きつつも、Aの話を大人しく聞いた。把握していないものも同様に大人しく聞いてはいたが、眉を顰めて不思議そうにしている。

「けれど皆様は自らを主人だと思っておらず、ただ私の事を同等の存在だと認識して下さっていた。
私と皆さんの考え方が噛み合っていなかったのです。」

非常識なのは、私だったんですね。

すっかり俯いたAが、震える指先を握りしめて
水気を含んだ声でそう呟いていた。

もう誰も、泣きそうな声で震える少女の事を、人形だと思ってはいなかった。