桜が舞う頃、君は。４ (ページ32)

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家族ページ32

＊

その夜、私は久々に実家に帰った。

母は相変わらず、庭に顔を向けている。

けれど、その日は何かが違った。

彼女は夜空に浮かぶ月を眺めていた。

母「ねぇ」

『どうしたの？』

母「あなたとあの人と私、3人で過ごした時間は、とても貴重だった」

『そうだね、お父様は仕事でほとんど帰って来なかったし、私は修行に明け暮れていたから』

私たちは"普通の家族"ではなかった。

職業柄というのもあったが、その"普通"がどんなものかですら、わからなかった。

母「だけど、それでも私は幸せだったわ」

あなたは？と彼女は私に問いかける。

家族で過ごした日々は、かけがえのないものだった。

それは紛れもない事実だ。

『私も、すごく幸せだった』

母「あの人もそう思ってくれているかしら」

『ええ、きっと』

母「ちゃんと、あの人に聞いておけばよかったわね…(笑)」

『お母様…』

母「ずっと前から、気づいてたのよ、こうして待っていたって、あの人はもう戻って来ないことくらい…っ」

彼女は月を見上げる。

頬には涙が伝っていた。

ずっと、彼女は気づいていたんだ。

父はもういないことを。

それでも、待ち続けていたんだ。

母「あなたにたくさん迷惑かけたわね…っ」

『そんなことない…っそんなことないよ…っ』

母「いい加減、受け入れないとね…っ」

私は泣きながら、彼女を抱きしめた。

『大丈夫、私がいるから…っ』

彼女は頷き、私を強く抱きしめた。

＊