最終話 ページ24
＊
Aside
あのお祭りの夜を最後に私はあの場所を離れ、そして湊くんから離れた。
あれで良かった。
私は幸せだった。
後悔はしていない。
陽菜が手に入れることのできない幸せを私が手に入れるなんて、おかしいんだ。
そして今更彼に会いに行く勇気などあるはずもなく、彼のいない世界で必死に生きた。
いつの間にか私は大人になり、毎日を普通に生きることができるようになっていた。
そんなある日のことだった。
仕事帰りに駅のホームで電車を待っていると、楽しそうな男の人たちの会話が聞こえてきた。
「だからそれはヤバイって！！」
「ふわっち、ちょっと落ち着いて考えてみな？」
「んー？どしたん〜？？」
「マジで言ってる？」
聞いたことのある関西弁、ふわっちと言うあだ名。
まさかと思い、恐る恐る後ろを振り返るとそこには懐かしい姿があった。
__湊くんだ。
目の前に湊くんがいる。
元気そうにしている。
その事実だけで涙が出そうになった。
だけど、私にはもう彼に話しかける資格はない。
それに、今の彼は私のことを覚えていないだろう。
やがて、アナウンスが流れて電車が到着した。
私が電車に乗ろうとしたその瞬間だった。
後ろから腕を引っ張られ、気がついた時には……
なんて妄想をしただけだった。
『元気そうで良かった……』
小さく呟いた声は、周りの騒音にかき消され誰にも届かない。
本当はもう一度だけ会いたかった。
本当はもっと一緒にいたかった。
本当はあの時、伝えなかったことを伝たかった。
だけど、それは許されない。
私は湊くんから離れたままだ。
あの夏は、ただの幻だったのだ。
そう思うことにした。
人に押されながら、電車に乗る。
「元気そうで良かった。」
そんな声が聞こえた気がしたが、私は振り返らなかった。
あの夏のことは、私にとって大切な思い出だった。
いつまでも色あせることのない記憶。
それはきっと、これから先も変わらない。
＊
終わり
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作者名：おふとん天使 | 作成日時：2023年7月11日 8時
