21話 ページ21
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不破湊side
Aちゃんから告げられた言葉。
俺は彼女に何かしてあげらることができただろうか。
俺がAちゃんにしてあげられたことなんて、何も無いんじゃないかと思うことがある。
だって本当は、彼女の優しさに甘えてばかりなのだから。
夏祭りの帰り道、俺たちは無言のまま歩いていた。
いつもと同じ分かれ道に差し掛かった時、Aちゃんが足を止める。
それから、少し緊張気味に口を開いた。
『今から行きたいところがあるんだけど…一緒に来てくれる?』
不安げに揺れるAちゃんの瞳を見て、断ることなどできるはずもなかった。
しばらく歩くと、着いたのは俺らがいつも通っている学校。
彼女は校門を潜り抜け、真っ直ぐ校舎ではない方へと向かって行く。
その後をついて行った先は、俺たちが初めて出会ったプールだった。
どうしてこんなところに連れてきたのだろう。
疑問に思ったものの、黙ったまま彼女についていくことにした。
やがて彼女はプールサイドで立ち止まると、水の張っていないプールの中を見つめた。
そして、ポツリポツリと話を始める。
『私、湊くんに会えて本当に良かった。自分のこと大嫌いな私が、初めて私が天野Aで良かったって思えた。湊くんと会えたのなんて本当にたまたまで……だけど、人生で1番素敵な出会いだった。』
涙を浮かべながら話すAちゃんの姿は、あまりにも痛々しくて見ていられなかった。
気付いた時には、彼女を抱きしめていた。
これ以上、彼女が傷付く姿を見たくなかった。
少しでも、癒すことができたらと願いを込めて。
しばらくの間、無言の時間が流れる。
やがて、ぽつりと小さな声で呟かれた言葉。
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作者名:おふとん天使 | 作成日時:2023年7月11日 8時