19話 「また」明日。 ページ19
「あー、生還おめでとう。一応、このシナリオの中では一番いいエンドだよ。・・・このルート、初見だと滅多にいけないはずなんだけどなぁ?」
メリカがちらりと目線を横にやる。この卓でもっとも女神に愛されていたやつは「ん?」と首をかしげた。
「時間ないからすぐに終わるやつ選んだけど、そのぶん分岐が難しいんだよ。大体NPCが死んでノーマルエンドに行く。神話生物が強いやつだから」
さすがに何時間もかけてやるものは無理と判断し、過去にやったことのあるシナリオを選んだ。短いが、クトゥルフらしいストーリーで、大変評価を受けているシナリオで、内容としては、目覚めると知らない細長い通路にいた、というシンプルかつ、途中で出てくる神話生物にNPCを食べさせて生還するという、後味の悪い、初心者でも分かりやすいクリア条件。前述した通り、探索する場所が少なく、(どちらかというと少なすぎる)大変短いため、動画サイトにもあげられやすい。
「これ有名なやつだよねー。私もオンセ(オンラインセッション)でやったよ」
「あ、だからあんまりしゃべらなかったんだ。私は名前だけだったから・・・」
「えーと、これって、怪物倒して自分の部屋にかえってハッピーエンドってことでいいの?」
「滅多にならないんだけどねー。狭くてマイナス補正かかるから。ああ、でも」
「なにさ」
先程まで楽しそうにしていた河城さんがにやにやした顔で見られ、少し声を低くする。心当たりがありすぎる。
「やけに女神様から嫌われてた人がいたなーって」
「う・・ファ、ファンブルは一回しか出してないし・・・」
「成功一回しか出してないじゃん。あとはファンブルと失敗でクリティカル無し」
「うぐぅ・・・」
そんなやり取りを重ねていると、窓から見える空はもう大分暗くなっている。そろそろ帰らなければいけない。いつまでもいては邪魔になるし。
「それじゃあ、また明日!」
元気よく別れの挨拶を口にする。メリカの顔には無邪気な笑顔が張り付いていて、その様子を見て河城さんが微笑む。
「うん、また明日」
見送る横井さんの顔にも、笑顔が浮かんでいる。
「また、今度やろうね。また明日」
「・・・また、明日」
「また」。
また明日と、約束を交わした。また、ということは、一回限りの友好関係じゃない。しばらく続く友好関係。そんな当たり前のことが無性に嬉しくて、今日、ダイスの女神に愛された少女も、嬉しそうに笑った。
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作者名:黒魔女 | 作成日時:2015年9月6日 14時