足袋 ページ5
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「久しぶり…!弓道部を見に来たの?」
『あ、う、ううん。少し歩いてただけ』
ここに弓道部があるんだ、知らなかったなんて口に出せるわけもなく違うとだけ応えた。
お互いまだ少しぎこちない。
『湊は?高校でも弓道部入るの?』
俺がそう口にした瞬間、湊は一瞬悲しそうな、寂しそうな、今にも泣き出しそうな顔になって薄ら笑った。
その笑みは俺が好きだったあの陽だまりのような笑みじゃなかった。分厚い雲がその陽だまりを覆うかのように、自分で何かを包み隠しているような笑みだった。
でも、俺にその事を言う権利はなかった。
もし彼がそうなら
俺と同じなら
「いいや、俺はもう弓道やらないから」
『そっか』
俺はきっと何も言えずただ1人で苦しむ湊から目を逸らすだろうから
それから、俺と湊は特に盛り上がる話もなくその場で解散した。それでも、何かが引っかかるような、蟠りが取れないような、そんな気がして悶々と考えながら歩いていればいつの間にか俺はもう玄関の前に立っていた。
__あの時、やめていれば
____欲をかいて、弓を引こうとするから
______危ない!!
_________いやぁあああぁあ!!
俺は自分で自分の手を汚してしまったんだ。
『ぅはぁ!!はぁっはぁ、っ!げほっげほ、ぅはぁ』
嫌な夢を見た。汗だくな状態で勢いよく起き上がる。なんでまたこんな時に思い出しちまうんだよ、
深いため息をついて、時計を見れば時刻はまだ4時過ぎ。最悪の目覚めからか、もう寝る気にはならなかったので、布団から出て学校に行く準備を進めた。
いつの間にかもう日は暮れ、時計の短針は4を指していた。
クラスの友達は出来たものの、自分がやりたいと思うような部活は一向に見つからず、途方に暮れていた。
もう諦めもついてきたところにどこからか大きな話し声が聞こえてきた。
なにやら揉めている様子ではなく、1人が1人に説得?をしている様子だった。しかも片方は多分湊。
なんの話しなのか気になって、少し立ち止まって見ていれば湊とバッチリ目が合った。今更目を背けることも出来ず、そのまま見つめ続けていれば、湊はこちらに向かってこようとしているではないか。
『え、なに?』
若干怯えながらもそう聞くと、湊は逃がさまいと俺の手を掴んだ。すると、湊と話していた男の子もやってくる。
俺はどうやら囲まれてしまったようだ。
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作者名:不満 | 作成日時:2022年9月1日 1時